前回に引き続き、今回もインタキシンジケートを対象とした調査を続行しようと思う。
インタキシンジケートは、その名の通りインタキ人によって作られた組織であるので、そのルーツを確認する意味も込めて前回はインタキ星系へ立ち寄ったが、ついにシンジケートの本拠星系であるPoitot星系に向かうこととする。なおこのPoitotという名前に関しては諸説あり、現在の標準星系図で用いられている「ポイトット」という読み方の他、「ポワト」ではないか? という説も有力だ。私個人としては「ポワト」の方がしっくりくるが、この調査記録においては標準のポイトットで統一する。
Poitot星系へ
さて、現在地であるインタキ星系からポイトット星系までのルートを確認しよう。
「わずか」と言っていいだろう。6ジャンプの道程である。しかしローセクからヌルセクに侵入するルートなので油断ができないことは言うまでもないが、かつてインタキ星系のあるPlacidリージョンから(現在の)ポイトット星系に追放されたインタキ人達にとっては、まさに帰り道のない無人島たる場所だった。その一連の出来事は、当研究班編纂の人類学大事典のこの項目をご覧いただきたい。
私は「UoC Research Shuttle」と名付けた愛機に乗り目的地へと向かったのだ。
PlacidリージョンのHarroule星系からシンジケートの領域であるシンジケートリージョンへと艦を進めながら、私はリージョンの情報をデータベースで調べてみる。すると、完全なヌルセク領域ながらステーションが存在する星系がやたら多いことに気がついた。
黄色の注釈については今は気にせず、マップ内の星系全体をご覧いただきたい。角丸の白い四角で囲まれた星系が、ステーションの存在する星系である。少なくとも三分の二ほどの星系にステーションが存在することがわかる。そして、これをご覧いただこう。
これは、ステーションが存在する星系を示す星図である。皆さんも経験上ご存じだろうが、ヌルセク領域においてステーションが存在する星系は極めて少ない。そのことをあらためてこの星図から読み取っていただけるだろう。例えば以前、サーペンティスの調査のため赴いたFountainリージョンの場合、広大なリージョンのうち、サーペンティスの根拠星系であるサーペンティス・プライムを中心としたわずか5つの星系にしかステーションは存在しない。
これはやはりシンジケートが「海賊」勢力とは異なり、商業活動がメインの組織であることの表れだろう。実際関連コーポレーションを見てみても、本社コープと言えるインタキシンジケートの他は、インタキ警察、インタキ通商、インタキ銀行と、名前だけ見ていると普通の大企業である。確かに非合法組織ではあるのだが、ニューエデン最大のブラックマーケットを抱えるその存在は、社会の裏側の存在とは言え、もはや四大帝国を含めた各勢力にとっても、不可欠なものになっているのかも知れない。
ポイトット星系調査
さあ、こんな考察をしているうちに、ポイトット星系に到着した。ステーションはふたつ。インタキシンジケートとインタキ警察の本社ステーションが存在する。まずはインタキ警察のステーションに向かう。
まあ、言っては何だが、普通のガレンテタイプのステーションである。こうしてみるとインタキ宇宙警察というのは大した組織ではないようにも思えてしまうところだが、実際の所はリージョン内に軍事支援施設から、工場、実験施設まで20のステーションを有し、常にリージョン全域に目を光らせるだけの戦力を独自に生産し、送り出し続ける能力を有する侮れない組織である。
そして次にインタキシンジケート、いやアライアンスとしてのシンジケートの心臓部とも言える本社ステーション「Intaki Syndicate Buerau」へ向かい、調査を開始する。
こちらも企業ステーションと呼ぶのにふさわしい整然とした雰囲気が感じられる。接近してみるとシンジケートのエンブレムを確認することができる。マークを付けておいたのでご覧いただきたい。
襲撃、そして交流
と、実に平和な感じでカメラを操作しながらの調査をしていた私だったが、突然強い衝撃と共に機体が激しく揺さぶられる。私はカメラに集中していた意識をすぐさまオーバービューに移す。
敵機!?
インタキ警察ではない。そもそも警察に撃たれる筋合いもない。どうやらここを根城にする私掠船のようだ……などと分析している場合ではなかった。この艦は多少装甲が厚いとはいえ、ただのシャトルなのだ。喰らったのは一撃? ……それとも二発? だが、気がついた時にはすでにシールドは剥がれ、アーマーにダメージが入り始めていた。
私はとにかくオーバービューから手近な月を選んでワープを開始する。さらに敵の弾が命中する……が、シャトルの機動性を活かし、素早くワープイン。辛くも逃げることができた。ただ、今にも爆散してしまいそうな機体の状態である。これ以上の航行は危険だと判断した私は、意を決して再び元のステーションへのワープを開始した。
そして、ワープアウト。すぐ近くにステーションとさっきの敵が。ターゲットされたものの、なんとかステーションに滑り込むことに成功したのだった。
私はシャトルを降り、修理を依頼すると、まだ胸の鼓動が収まらないのを感じながら休憩スペースに腰をかけると、すっかり力が抜けてしまった。そんな放心状態の私の前にひとりの男が立ったのは、どのくらいの時間が経過してからだったのか?
「いきなり撃って悪かったな」
私ははっとして目の前に立つ男を見上げた。こいつが私を撃ったのだ。でも、ここはステーション。口げんかなら負けない……というほど自信はないけれど、まあ戦闘よりかはなんとかなるんじゃないかと思って、できるだけ余裕を見せて私は答えた。
「余裕だったわ。見ての通り、私は生きてるわよ?」
男は明らかに笑いをこらえているようだ。何がおかしいのか。
「わかったわかった、すまなかったよ……いや、別に撃つのは悪くないと思うんだがな。アンタの船の情報を確認したら、UoCの調査船ってなってるじゃないか。それでまあ少しは悪いことしたなと思ったわけさ」
「船の情報なんて、撃つ前に確認しなさいよ……まったく」
やはりカプセラだからだろうか? 普通なら自分の命を狙ってきた相手と、事の直後にこんな会話はできないだろう。私はまだ墜とされたことがない。だからこそ墜とされることがとても怖い。でもやはり、心の奥にあるのだろう。「死んでも終わらない」という余裕みたいなものが。
彼は私にどんな調査をしているのかを尋ねてきた。私も別に隠すようなことでもないし、正直に、人類学の調査としてNEW EDENの文献の翻訳・編纂そしてそれに基づく現地調査をしていることを話した。
すると、彼は意外にも嬉しそうな表情を浮かべてこう言った。
「正直なところ、翻訳とは……なかなかクールだと思うぜ?」
私はてっきり馬鹿にされるかと思っていたので、拍子抜けしつつも少し面映ゆく、少しぶっきらぼうに答えてやった。
「調査が忙しすぎて、戦ってるヒマなんてないのよ!」
彼はその答えに笑っていたが、やがて優しく微笑むと、ひと言。
「あんたはグレートさ」
そう言って背を向けると自分の艦の方へ歩きはじめた。私は去りゆく彼の背に「Fly Safe」と投げかけると、彼は後ろを向いたまま手を振ってそれに応えたのだった。
……悪いやつって訳でもなかったのかな。
そう思いつつ今さら彼の情報を照会すると……なかなかの極悪人だった。人類学を研究していても、ひとりの人間の事なんてわからないもの。あらためてそう思ったのだ。
私はステーションの中を改めて見回した。すっかり洗練された現代型のステーションだ。しかし、ここは第5惑星の軌道上。そう、かつてガレンテ連邦によってこの星系に追放されたインタキ人達がガラクタを集めて造った最初のステーションが設置された場所に他ならない。もちろんステーション自体はリニューアルされているのだろう。しかし、彼らの本拠地はここ以外にはあり得ないのだろうと思う。
さあ、シャトルの修理が完了したようだ。調査を続行しよう。D-B7YK星系へと進路をセットし、ステーションをあとにした。再び眼前に広がるポイトットの風景をしばし眺めながら、あらためてこの星系の名を想う。
ポイトットの名は、彼らにとって重要である。インタキ人の偉大なIdama(Idamaについては大事典のこの記事の中にある「Ida – インタキ人の信仰」を参照)の名であり、かつてインタキ人がこのリージョンに進出し、初めて到達したコンステレーションに付けられた名前であり、その後、ガレンテ連邦によって星図から抹消された名前である。そして、彼らが追放され、再起を図った星系に再び名付けたのだ。Poitotと。
シンジケートリージョンで名付けられている星系はこのポイトット星系のみである。それはその名の持つ重要性故であると言われている。単にポイトットという名を付けるだけでなく、他の星系に名前を付けないということがその重要性をひときわ際立たせている。そこにはきっと先人への想い、誇りなどと同時に、それと同じくらいの、もしくはさらに大きなうねるような黒い想いが詰まっているように私には思えてならない。
ワープイン。
D-B7YK星系への道のりは11ジャンプ。その途中でもいくつか興味深いものがあったので記録しておく。
まずは8V-SJJ星系で発見した、この施設だ。
Serpentis Distribution Outpost
インタキシンジケートとの関係性の深さが指摘されているサーペンティスの施設だ。名前こそ、流通基地となっているが、つまり、ドラッグの流通拠点というわけだ。サーペンティス艦が防衛しているこの施設を遠距離カメラで詳細に観察してみる。
メインの構造物の周りにいくつか点在する黒い構造物。これは本来宇宙空間の作業場などに設置される居住用設備なのだが、これがドラッグの取引に使われているようだ。(管理人注:名前が「Drug House」ですから……)
違法薬物と言えばサーペンティス、といわれるような存在だが、やはりその流通面においてはシンジケートのマーケットを活用しているのだろう。サーペンティスとエンジェルカルテルの関係に見られるほど明確な協定ではないのかも知れないが、このような施設がシンジケートの宙域にあり、そしてシンジケートリージョン全域においてサーペンティスの艦隊がボディガードのようにうろついているのを見ると、相応のギブアンドテイクな関係にあるのが見て取れる。
次に、3-IN0V星系でこのような施設……の残骸を発見した。
Abandoned Research Project
名前とその風貌から察するに、研究施設の廃墟のようだが……廃墟にもかかわらず、やはりサーペンティスの艦船が警戒している。興味を持った私は、警護艦を一旦遠くに引き寄せ、素早く廃墟に接近した。
構造物の本体はやはり稼働している様子はなく、廃墟であることに間違いはないようだ。
ではなぜ、こんな廃墟を警護船が守っているのか。私は不審に思い、構造体の下部に潜り込む。するとなにやら稼働し続けているらしき円形の物体を発見した。これは……「Particle Acceleration Superstructure」粒子加速器のようだ。そして、そのそばには割れたアステロイドが浮かんでいる。
アステロイドを分析してみると、主な組成成分が金属結晶となっている。通常のアステロイドよりも重量も硬度もあるタイプだろう。なるほど……このアステロイドが施設を直撃して双方共に破壊されてしまったということのようだ。ただ、この加速器のみが破壊を免れ、今も稼働を続けているらしい。それにしてもいまだに他者の接近を警戒しなければならない「何」がここに隠されているのだろうか。粒子加速器を用いる研究……必ずしも危険なものとは限らないが、危険でもありうる。シンジケートの宙域でサーペンティスが守っているのだからなおさらだ。
しかし私ひとりではどうすることもできない。せめてこの情報を調査記録として公開することで、何らかの抑止力となることを祈るのみである。
さて、このような道中での発見を経て、私は目的地にたどり着いた。
D-B7YK星系。シンジケートリージョンの中でも、最奥の領域のひとつと言える。
こんな所までやって来たのは、巷でまことしやかに囁かれるこの施設に興味があったからだ。
Intaki Syndicate Executive Retreat Center
インタキシンジケート・エグゼクティブ・リトリートセンターである。リトリートセンターというのはいわゆる保養所のようなものと考えるとわかりやすいだろう。
この施設が「まことしやかに囁かれる」には訳がある。まずは名前の通り「エグゼクティブ」な施設であり、入場できるのはシンジケートの幹部およびその客人のみと、非常に限定されているからである。ただの金持ち、というだけではなく、シンジケートに関わるVIPのみなのだから、その実態が噂レベルでしか語られないのもやむを得ないだろう。そして、もうひとつはその立地である。この調査ファイルの冒頭で掲載したマップをもう一度ご覧いただきたい。
黄色い矢印は他リージョンからシンジケートリージョンへの接続部だ。右上の丸印はPoitot星系、そして左上の丸印がここ、リトリートセンターがあるD-B7YK星系である。リージョンの中でもとりわけ奥地にあることがわかるだろう。このような場所に造られた要人専用の「保養所」だ。まさに俗世間と切り離された存在と言うしかない。
もちろん私の入場が許可されるわけもない。せめてのんきな旅行者を装いつつ、外部から詳細な調査をするとしよう。シャトルの名前を「Sightseeing Shuttle(観光シャトル)」に変更してから接近する。こういうとき、非武装のシャトルは便利……な気がする。
やはりリトリートセンターというだけあって、居住区画が充実している印象だ。メインゲートもどことなく開放的かつゴージャスな……気がする。
「気がする」ばかり続くのは、調査レポートとしてどうだろうとは思うものの、あまりに住む世界が違いすぎるのでご容赦いただきたい。
それはさておき、この施設がVIP御用達であるということを示す証拠は、ステーションの「外」にあった。
Habitation Pleasure Hub。娯楽満載の居住区画……といった感じだろう。クレオドロン社製の多用途型居住施設には「Pleasure」のネオンが煌めき、そのいくつかにはラグジュアリーヨットが停泊している。ステーション本体の居住区画も充実しているようだが、ここはさらに超VIP用の専用施設のようだ。
普段の私は、あまりお金には執着しない方だが、このような光景を目の当たりにすると、さすがに大金持ちになった自分を想像して胸躍らせてしまう。もちろんほんの一瞬の話だ。結局のところ、闇組織が闇組織らしく荒稼ぎをしている証拠なのだ。現地調査としては興味深いものではあったものの、私のような清廉な研究者には精神衛生上よろしくないと判断し、そろそろ帰路へつくこととした。
調査後記
TrossereのUoC支部へ戻る道中、はじめてのシャトルでの調査について総括してみた。
やはりヌルセク領域を移動することにおいて、バブルの影響を無視できるシャトルが持つアドバンテージはかなり大きい。ワープインも早く、危険地帯からの脱出もやりやすい。ただし、武装はもちろんアフターバーナーも無く、装甲も無いに等しいので、海賊などが存在する宙域での調査活動は細心の注意を要する。今回襲撃されたのも、ステーションの外部調査のために宙域で停船している時のことだった。
……なかなか、理想通りとはいかないものだわ。
今回はインタキシンジケートに関する調査だったけれど、思い返すとそれはインタキ人に関する調査という側面も大いにあったように感じる。今のシンジケートは明らかな非合法組織であり、健全な市民たる私はそれを肯定はしない。でも、追放から再起に至った不屈の意志、インタキ・プライムの窮状、そして一種英雄的なSilphy en Diabelのカリスマ性。どうしても単なる「悪」と割り切れないのも本当のところ。それは私を襲ったあの男についても同じ。客観的に見れば悪人だけれど、実際に言葉を交わした私は、彼の存在を「悪」だと断じることはできていない。私を襲った相手なのに……だ。
人類学って……人間って、ホントに難しい。
でも、悩むたびに進む道を変えていては何もできない。
だから、私は悩みながらも正義を信じ、平和な世界を望み、そして人類の明るい未来を求めて調査を続けるのだ。
そんなことを思っているうちに、Trossereにたどり着き、UoCのステーションが見えてきた。ステーション内の私たちの殺風景な研究室を思い出し、そして、リトリートセンターのゴージャスさを思い出し、私は苦笑い。
ちょっとステキなインテリアでも研究室においてみよう。
そんなささやかなワクワク感を胸に、私は今日も帰ってきたよ。
ただいま。
University of Caille 人類学部第7調査班
首席研究員 Saaren Arma