原典公開日 YC108-11-28
船の残骸をドッキングベイに曳航した後、オーデュバンは箱を持って下船した。彼の頭の中にあるのは、この光を、燃えるような光を、一人でも多くの人に届けることだけだった。
税関に行くときも、人目を気にしながらよろよろと歩いていた。箱を開けるときは人通りの多い場所がいいと思っていた。
すると税関はすぐに彼を呼び止め、引き止めた。
箱の中には何が入っているのかと聞かれた。彼は何か信じてもらえそうなことを言おうと、じっと彼らを見つめていた。しかし、それだけでは不十分だった。税関吏の一人が彼から箱を取り上げ、地面に置いて開けた。男は目を見開き、あんぐりと口を開け、青ざめた。
オーデュバンはため息をつき、ポケットに手を入れて、小さなリモコンのボタンをクリックした。
箱は燃えるような光で照らされた。
彼の宗派では、フェドを浄化の儀式の一環として使っていた。これから彼は間近に迫った仕事に向けて自らを清めるためにフェドを使おうとしていた。
彼は裸で寒さに耐えながら船のメイン通路に横たわった。バランスを取るのが難しく、視界には常に奇妙なイメージが浮かんでいた。でも大丈夫。フェドにはガイドは必要ない。
彼は死んだようにじっと横たわっていた。そして彼らは来た。
これは別れの挨拶だ。渡ってきた橋を燃やすがごとく、もう後戻りはできない。
オーデュバンの友人たちは彼と口をきかなくなり、彼の家族は彼を家から追い出した。彼がアマー人に魅了されたことは、敵を知るには良いことだったが、それが恋心に変わったとき、状況は変わった。
彼はアマーのことだけを考えていた。もっと言えば、彼女のことだけを考えていた。彼女の信仰と献身の言葉に心を打たれ、彼女に手紙を書き、彼女が返事をくれたとき、彼は自分の人生が新たに始まったように感じたのだった。
ブーツの下で雪が砕け、前方の宇宙船がまぶしい光を反射していた。
彼は今、旅立とうとしている。彼女と一緒に。新しい人生のために。
船はほぼ崩壊していた。制御装置の半分は吹き飛び、設備のほとんどは嵐の中の紙のように引き裂かれていた。
乗組員は死亡し、彼らの遺体は船全体に散らばり、ほとんど認識できないほど焼け焦げて細切れになっていた。
Sanadaも死んでいた。辛うじて生き残ったオーデュバンは彼女の遺体を彼女の部屋で発見した。
船の奥深く、うなりを上げる機械に囲まれて、オーデュバンは仕事を始めた。時折、重い工具の助けを借りながら、それぞれの装置を適切な位置に押し込み、ねじり、切断し、打ち込んだ。それは醜い、実に醜く気が乗らない仕事だったが、やらなければならなかった。
この数日で10カ所目のステーションだったが、彼らはまたしても逃げなければならなかった。彼らは疲れ切っていた。ステーションを訪れる度、怒って抗議する人々から追い出された。彼らの説く黙示録的なメッセージに怒りを覚えた人たちがいたようだ。絶望的な時代が絶望的な言葉を欲していることを理解もせずに。オーデュバンが失望したのは、その抗議者の中にアマー人もいたことだ。一人か二人は、彼がミンマター人であることを理由に怒鳴ったが、それは気にならなかった。しかし残りの人々はSanadaに怒りを集中させ、彼女の熱狂的な態度と過激な思想を非難した。オーデュバンはそれに耐えられなかったのだ。メッセージに対して適切で建設的な批判をするのではなく、美しいメッセンジャーに対して糾弾することを選んだのだ。
Sanadaの信者の中にはそれに耐えかねている者もいた。ただでさえ少ないグループが、さらに減っていった。その隙間を埋めるように、オーデュバンの献身的な努力が続いた。
彼らが11番目のステーションに到着した時には、乗組員は当初の3分の1にまで減り、後続の数隻の支援船も残っていなかった。
息をするのも少し苦しくなってきた。オーデュバンはまだ動くことも考えることもできたが、少しでも頭の回転を速めると、デッキ全体が回転し始めるような状態だった。
人間の生存者は彼だけだった。しかし、フェドは生き残っただけではなく、さらに繁殖していた。収納されていた区画が破壊されてしまったため、今では船中を這い回り、乗組員の体の一部で腹を満たして増えていっているのだ。
オーデュバンはフェドのことは気にしなかった。船のガベージシュートが曲がったり壊れたりしていたので、ゴミの多くを処分するにはフェドが唯一の選択肢だったのだ。普段ならゴミは船の排気口に押し込まれ、燃やされて塵になるところだが、今はフェドが食べてくれている。
保管庫には、乗組員たちが他の船から分離した未使用のリグがいくつかあった。リグは船の恒久的な改造キットで、シールドや武器制御など様々なサブシステムの出力を向上させる。ただし一度挿入すると二度と取り外せない。挿入はよく制御された状態、できれば資格を持った専門家によって制御された状態で行われるべきものとされていた。
しかし、ここには資格を持った専門家もいなければ、管理された環境もなかった。オーデュバンは機械の専門知識を少しは持っていて、どこに何を差し込むかを知っていたが、それだけのことだった。
彼はいくつかのリグユニットを手に取り、自分が何をしているのかよくわからないまま、船の中心部に向かった。
船の大気制御は機能していなかった。オーデュバンは、完全に故障するまで長くはかからないだろうと考えていた。おそらく最寄りのステーションになんとかたどり着くのに必要なくらいの空気は残っていただろうが、そんなことはもうどうでも良かった。彼にとってそこにはもう何もなかった。そう、まったく何も存在しないのだ。
「何を言っても駄目です」と彼は自暴自棄気味に言った。「私にはあなたのように私たちのメッセージを伝えることなんてできないのです」
彼女もこれには黙ってしまった。
「私があなたの中に見たものを、彼らにも見せてあげたいと願っています。心から願っているのです」
「でも……できないのです」
「あなたは私の中で何を見たの?」と彼女は尋ねた。
彼が口ごもると、彼女はもっと優しい口調で付け加えた。「どう見えたの？ 言葉では言い表せないほどあなたを揺り動かしたものは何だったの？」
彼はそれについて考え、そして言った。
「あなたの内なる光です。私に言えるのはそれだけです。私はあなたの顔や目を見て、あなたが純粋さに満ちた内なる光を持っていて、それが輝いているように感じたのです。そして、その光に照らされたすべてのものが、あなたの一部となったのです」
「おおげさね」 彼女が言うと、彼は微笑んだ。
「一度、書き留めたことがあるのです……今でも覚えている」
「それでは、彼らに光を見せてあげないといけませんね」 と彼女は言った。
「私から放たれる光を」
彼はうなずき、考えを巡らせながら辺りを見回した。
その時、目に入ったのは懐中電灯だった。
船のコアに向かう途中、フェドのケージを通りかかった。フェドは雑食性の小動物で、神経系と胃袋を持っているに過ぎず、触覚を持った肉の塊のように見えた。視覚も聴覚もなく、嗅覚だけでコミュニケーションをとる。閉ざされた船に必ず溜まる廃棄物を主食とし、船の掃除に多用されていた。使わないときは別のケージに入れられていた。そうしないと、無限に繁殖して船内を埋め尽くしてしまうからだ。忌み嫌われているが、宇宙での長期滞在には欠かせない存在だ。
オーデュバンは彼らのケージの前にしゃがみ込んだ。彼らがもぞもぞと動くのを見ていると、何か心が落ち着くのだ。彼は考える。人はこのような小さな生き物よりも喜びを感じることができるのだろうか。その心の複雑さゆえに、人は人生のより奥深い楽しさに触れることができるのだろうか。一方で、単純さこそが喜びの鍵なのかもしれないとも思う。もしそうであれば、フェドのような生き物は我々の一歩先を行っていることになる。彼らは複雑な感情や疑念に縛られず、人間よりもはるかに純粋にあらゆる種類の喜びを感じることができるのだろう。
彼は、自分が状況を複雑にしすぎていたことに気づいた。お金が必要で、それを海賊から得るために、より強い船が必要なのだ。そして、彼はその解決策をここに持っていた。最初から最後まで、一本筋の通った論理だ。それ以外のことは気晴らしにしかならない。
彼は、リグを手にして歩き出した。
ある日、Sanadaが彼に語りかけてきた。「私たちは彼らに光をもたらさなくてはならないの」彼女の声は彼の頭の中に響き渡った。「できる限りの力を尽くして」
「できない」彼は言った。
「私にははできない。私は失敗したんだ。すまない、本当にすまない、一人ではとてもできない――」
「ひとりでする必要はないの」と彼女は言った。
彼は静かになった。
「私が彼らに光をもたらすの」と彼女は言った。「でも、それにはあなたの助けが必要だわ」
汚染された空気とフェドの悪臭の中で、彼は心を整理しようとした。 「私は何をすればいい？」
「私が語るのを手伝って」と彼女は言った。
フェドには食べるものがたくさんあったので、排出されるガスも大幅に増えた。オーデュバンは悪臭をあまり気にしなかったが、空気の不足も相まって、かなり妙な、まったくもって奇妙な気分になってきた。
リグの設置が終わると、彼は工具を片付け、Sanadaに黙祷を捧げてコントロールルームに向かい、メインコントロールテーブルに座った。彼は決してクルーではないが、いつも見ていたので、どのボタンが何を作動させるかはわかっていた。
一つ押してみた。何も起こらなかった。
彼は椅子に座り、目をこすりながら次の行動を考えた。
すると、どこかで火花が散る音がした。そしてもう一つ、さらにもう一つ。
一瞬の完全な静寂ののち、リグが作動し、サイレンが鳴り、爆発が始まった。
今は、船のクルーの他にはふたりだけになっていた。他の者は逃げてしまった。Sanadaは、オーデュバンの助けを借りて船の指揮をとることはできたが、乗組員のための資金が不足していたので、すぐに何かを考えなければならなかった。
Sanadaが寝ている間に、オーデュバンは居住区から倉庫に忍び込んだ。そこには、違法な手段で手に入れたものも含めてさまざまな機器があり、それを売ろうと思っていたが、どのステーションもドッキングしてくれない。残る選択肢は、宇宙海賊と戦って賞金をもらうことだが、乗組員たちは「何か切り札になるものでもないと、この船は戦えない」と言って拒絶した。
静かに過ぎる時の中で、近頃Sanadaは、もう望みがない、諦めかけていると話すようになっていた。
オーデュバンはそれを許すわけにはいかない。
それは世界の終わりだった。それは転落と屈辱であり、究極の誤りであり、許されざる暗闇への転落なのだ。
オーデュバンは、真田の頭を抱きかかえた。胴体はどこにもない。
彼の宗派は宗門から外されていた。アマー人にとってさえも急進的かつ過激すぎたのだろう。Sanadaはそれを気にせず、彼らは再び星に赴き、言葉を説くと言った。これを不服とする者もいたが、オーデュバンにとっては疑問の余地のないことだった。
彼はSanadaを愛していた。彼は、今まで愛した誰よりもSanadaを愛していた。それは、言葉も、そしてほとんど感情さえも超えるほどの純粋な愛だった。それは、彼の心の中で激しく燃え上がり、思考や行動を超越した確かな力であるように感じられた。彼女の言うことはすべて真実であり、彼女のすることはすべて正しいのである。
頭の中に響く彼女の指示に従って、彼は船を動かしてステーションへのコースを取り始めた。船はすでに難破船の如きであり、Sanadaの首を入れた箱を持って税関を通過できるかどうかも疑わしかったが、やってみるしかなかった。
フェドは彼の上を這い回った。彼らの排出物は香水のように感じられた。
彼は最初の一匹の背中の石灰質の隆起の裏を掻いてやった。興奮したフェドは、彼の胸の上によじ登ってきた。彼は掻き続けたが、指が滑って柔らかい肉の中に突き刺さってしまった。しかし気にすることはない。フェドが気持ちよくて振動していることは間違いなかったから。
彼は、粗い鋸歯状の軟骨の小さな列を持つ彼らの口が、彼に吸い付き、掃除し、養分を探しているのを感じた。
彼が掻いてやったフェドは今、彼の右の乳首のところにいた。彼は目を閉じてため息をついた。
彼は懐中電灯を入れ、「光を与える者」を箱に入れた。リモコンを仕込んである。
彼はそれをテストし、リモコンをクリックした。
Sanadaの瞳は光で輝いていた。
参考資料
この文章は下記原典を翻訳したものです。原典の著作権はCCPに帰属します。
原典 EVE Universe – Chronicles – Fedo Song
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