ある日のこと。ふりっぷの元にSaaren Arma(サーレン・アルマ)が訪れた。
その来訪にふりっぷが驚いた理由は、それが急なものだったこともあるけれど、それ以上に、彼女がJitaにある自分のオフィスに来ること自体が珍しかったっということの方が大きかった。
「こんにちは、ふりっぷ。調子はどう?」
サーレンは特に興味がないのを隠そうともしない態度で社交辞令。ふりっぷもそんな彼女には慣れたもので、そんな質問にまともに応える必要がないことはわかっていた。
「さあ、サーレン。君がこっちに来るなんて珍しいね。忙しいんじゃないの?」
サーレンはふりっぷの勧めも待たずに部屋の中央におかれた簡素な(安物の)応接セットのソファーにもたれるように座り込んだ。
「うん、ちょっとね。……お願いがあるの」
本能的にイヤな予感がしたふりっぷは脳みそをフル回転させ、なにか急用がなかったかを思い出そうとしたけれど、その試みが実を結ぶ前にサーレンはすかさず言葉を続けた。
「ほら、今度あるでしょ? 選挙」
「え? ……そうだっけ?」
サーレンは呆れたように首を振りつつ。
「まったく……ちょっとは真面目に世の中のことを考えないと。……ほら、CSM ―― 星間管理評議会―― 選挙よ」
そこまで聞いて、ふりっぷもようやくピンときたようで……。
「ああ、カプセラたちで構成された評議会……だったよね? ……ってまさか、ワタシに立候補しろって言うんじゃないだろうね!? ダメダメ!! こっちだって忙しいんだから!!」
サーレンは機械的にスルー。
「それは良いアイデアだわ。で、それはさておき」
あまりにきれいにスルーされたことに絶句するふりっぷを尻目に、サーレンは淡々と用件を伝えるのだった。
「あなた、私の代わりに選挙の候補者紹介の翻訳プロジェクトに参加してくれないかしら?」
「ほ……翻訳? ワタシがかい?」
どうやら、彼女は自分が誘われた翻訳プロジェクトに、ふりっぷが代わりに参加してほしいと考えているようだ。その後サーレンから説明を受けた内容をかいつまむとこういうことらしい。
CSM選挙は今度で17期目となる、カプセラ社会においてはなくてはならない制度だけれど、NEW EDEN全体でひとつの選挙区として投票が行われる関係上、少数言語を扱う者達の社会は少々置いてけぼりの状態になってしまっているということだ。
そこで、ふりっぷやサーレンと同じ少数言語を扱う人々の中の有志で、候補者紹介などを翻訳しようというプロジェクトが立ち上がり、普段からNEW EDENの文献の翻訳成果を公表しているサーレンにもお誘いの声がかかったということらしい。
ふりっぷは首をかしげつつサーレンに問いかける。
「でもさ、それなら自分でやればいいんじゃないの?」
でも、サーレンはさも残念そうに首を横に振った。
「私はUoCの研究員、即ちガレンテ組織の人間だし……まあ、禁止されてるわけじゃないけれど、政治的にはできるだけ中立の立場で人類学の研究をしていきたいの」
まさか候補者紹介の翻訳自体が政治的活動になるわけではないだろうが、サーレンとしては政治的な場に名を晒すこと自体を避けたいと思っているようだ。現地調査などで色々危険な場所にも行ってるみたいだからわからなくもないと、ふりっぷも一応理解する……けれど、根本的な問題が。
「でもさ、サーレン」
「なによ?」
とても人にものを頼んでいるとは思えない態度でサーレンは応じる。
「なにか問題でもあるの?」
「あのさ、ワタシは翻訳なんてあんまりできないよ?」
ふりっぷが根本的な問題を提示するも、サーレンは想定の範囲内とばかりににっこり微笑みつつ応えるのだった。
「大丈夫、あなたの翻訳能力になんて期待してないから。裏では私が協力するから大丈夫、安心して参加してちょうだい!」
開いた口が塞がらないふりっぷの意思を確認することもなく、サーレンは依頼者らしき人物に連絡を取り始めたのだった。さあ、ふりっぷは(名前だけとはいえ)この大役を果たすことができるのだろうか?
というわけでみなさま、選挙ですね。
CSM(星間管理評議会)選挙、17期目ですって!
上の物語はフィクションですが、翻訳プロジェクトが立ち上がっているということも、ワタクシふりっぷが末席に名を連ねているということも本当です。一応メインキャラであるFLIPの名前で参加することになったのですが、ふりっぷがガシガシ翻訳するというのもRP的にいかがなものかと思い、このようなフィクションを書いてみました。
毎回、10名の枠(以前はもっと多かったようですが)を巡って数十名が参加しているCSM選挙。しかも候補者それぞれに、独立系から大手アライアンス系まで色々なコミュニティを代表されていたり、TwitchやYoutubeなどの配信で名を売っている、有名人枠的な方も多く、経済だけじゃなくて政治までリアリティがあるんだなぁと感心してみたり呆れてみたりなワタシです。
ただ、フィクション中で触れたとおり、基本的に候補者紹介などの選挙キャンペーンもほとんど英語で行われているため、魅力があり、かつ私たちのEVE生活にも直結する大切なコンテンツでありながら、日本人プレイヤー的にはいまいち盛り上がりに欠けていたのも事実のようです。
そこで、このCSM選挙を日本人コミュニティでも盛り上げたいとお考えの有志の方々が旗振り役となって立ち上げたのが、今回私も参加することになったこの翻訳プロジェクトなのです。
もっとも、ワタシはいつも四苦八苦しながらなんとかかんとかフィクションを翻訳している程度の英語力ですので、ほぼ戦力外ではありますが、なんせ候補者が多い(今期はまだ候補者は確定していませんが、例年通りであれば)ので、たぶんいないよりはましだと思って参加させていただいた次第です。
とりあえず、選挙の告知だけは公式でも日本語で出してくださっていますので、皆さまそちらをご覧いただき、そして、選挙戦本番となった時には、プロジェクトメンバーみんなの努力の結晶である翻訳も公開される予定ですので、それをごらんいただいて、ぜひ清き一票を投票しようではありませんか!(清き一票って久しぶりに聞いた気がしますねw)
とまあ、堅苦しいことをいいましたが、実際のところ、今、翻訳作業をしていて思うのは、ホントに候補者の皆さんそれぞれに違った背景、コミュニティにいて、豊かな経験をお持ちで、より良いNEW EDENにしたいという強い思いをもたれているんだなぁということです。そんな候補者のプレゼンテーションを読むだけでも、EVEプレイヤーならば充分価値のあることだと思います。
プレイ歴1年未満で、(コープには入れていただいているものの)意味不明なソロプレイばっかりで、しかも最近は翻訳ばっかりでログインしている時間がないという体たらくなワタシですから、色々なEVE用語やコミュニティで育ってきた用語が飛び交う文章を翻訳するには、本当に実力不足だなぁと感じていますが、英語力的にもEVE知識的にも素晴らしすぎる猛者たちが翻訳メンバーには名を連ねておりますので、皆さんにおんぶに抱っこでなんとかやって行こうと思います。
とりあえず、上述のリンク先の記事の中から今後の選挙スケジュールだけ、こちらにも転記しておきますね。(なぜか原文の改行がおかしくて読みにくいので……)
- 5月2日~5月12日 – 申請期間
- 5月9日~5月20日 – 申請処理 (←いまココ。正式な候補者を確定させるための審査が行われています)
- 5月25日 – 候補者ライブ発表
- 5月25日~6月5日 – キャンペーン期間
- 6月7日~6月14日 – 投票期間
- 6月16日 – CSM 17の発表
というわけで、皆さん投票して盛り上げましょう!
最後に
こんな感じですので、当サイトのフィクション翻訳はちょっと後回しな感じです。でも、サーレンがアマー関係の文献翻訳を進めているところですので、またの案内をご期待下さいませ。
2 thoughts on “選挙の季節 – CSM17”