前々回の調査では私たちガレンテ人のホームワールドであるガレンテ・プライムの調査を行った。しかし、ガレンテ・プライムのことを述べる上ではやはり、ここ、Caldari Prime(カルダリ・プライム)についても触れないわけにはいかないだろう。
あくまでもこの調査は我々UoC人類学部第7調査班の本来の調査対象である「書籍・文献」を補完するものであるため、カルダリ・プライムについての概略は人類学大事典のこの項をご覧いただきたい。
位置情報
- Essenceリージョン
- Cruxコンステレーション
- Luminaire星系第7惑星
- Cruxコンステレーション
基本調査
Luminaire星系の第7惑星であるこの惑星は、同じく第6惑星であるガレンテ・プライムよりもさらに星系の外側に位置する。しかし、このわずかひとつのずれがこの惑星と、そこに植民したカルダリ人の運命を決定づける第一の要素となった。つまり、ガレンテ・プライムは当初より人類にとって住みやすい環境であったのに対し、カルダリ・プライムはこの星系での植民可能範囲の外縁にあたり、大がかりなテラフォーミング無しでは人類の植民がそもそも困難であった。
しかもそのテラフォーミングが充分になされる前にEVEゲートが崩壊してしまったことにより、カルダリ人はこの惑星で孤立し、200年以上の地下生活を強いられることとなったのである。さらにようやく完了したテラフォーミングも不充分な管理体制の元で行われたために不完全であり、その後もカルダリ人は冷涼で厳しい自然環境の中でその歴史をつないでゆくこととなった。
実際に宇宙からこの惑星を眺めてみると、ガレンテ・プライムより陸地が多い感があるものの、現在ではそれなりに住むのに適した環境になっていると思われる。豊かな自然の中でも夜の大陸を広く覆う人口の灯りが、至る所に人間の手が入っていることを確認させてくれる。
先ほど、カルダリ人が過酷な自然環境の中で生きることとなったと綴ったが、そのことについては大事典のこの項が興味深い。カルダリ人は厳しい自然環境の中に精霊を見いだすことで生き抜くための精神的な柱を築きあげたのではないだろうか? それは人の命の無常を自然なものとして受け入れることにつながる。死は恐れるものではなく高次の精神世界への昇華であり、子孫たちを天国のような別世界からではなく、同じ場所に留まり見守り続けるという死生観もその産物であるように私は考える。
一方、カルダリ人といえば「好戦的」というイメージがつきまとう。これについて、上記のような自然との共生的なイメージと相反するようにも思えるが、そうではない。いくら厳しい自然の中に敬愛すべき精霊を見いだしたところで、それを受け入れるだけでは待っているのは滅亡だけである。個人としての命がはかないものであると認識していればこそ、個を抑え常に種族の生存のために戦い続ける必要があったであろう事は想像に難くない。むしろ精霊信仰も死生観も過酷な状況で心置きなく戦いに赴くための助けになっていたと思われる。
戦場としてのカルダリ・プライム
ガレンテ・プライムの調査報告でも触れたが、カルダリ・プライムはカルダリ連合のホームワールドでありながら、ガレンテ連邦のホームワールドと同じ星系に位置するという特異な状況下にあるということは誰でも知っていることだろう。
200年以上前のガレンテ連邦創立の際にカルダリ人も参加した。これはそれこそ2つの主星の地理的要因から考えても自然なことであったし、当時の勢力的にもガレンテ連邦にカルダリが参加するというのは当然な流れと言えるだろう。
しかし、カルダリ人はあまりにも独立心が旺盛すぎたと言える。普通の種族なら2つの主星の近さとガレンテ連邦の勢力の大きさゆえに、むやみに反旗を翻したりはしなかっただろう。しかし、果敢にも反乱を起こしたカルダリ人は、撤退作戦こそ一定の成果を収めたものの結果的にホームワールドを追われ、二世紀もの間、故郷をガレンテの支配下に置かれるという結果となった。
さらに近年になって、カルダリ連合によるカルダリ・プライム奪取作戦の決行、そしてガレンテ連邦によるさらなる奪還作戦「オペレーション・ハイランダー」と続く。結果として現在は非武装地帯として表面上の平和が保たれ、ガレンテ連邦にとっては脅威という意味においてはその危険度を下げることに成功したし、カルダリ連合にとっても形式的にはホームワールドを(半分は)確保したということでメンツが保たれた形となった。
しかし、この200年以上、戦場となる度にカルダリ・プライムは戦火にまみれ、大きな傷を負い続けてきた。その最たるものが、オペレーション・ハイランダーの際に惑星状に墜落したタイタン「Shiigeru」によって引き起こされた大災害だろう。これは現在もまだ傷は癒えず、オペレーション・ハイランダーの主戦場であった宙域からも時間帯によっては目視で確認することができる。
風の精霊たちはどのような想いでこれを見つめているのだろうか?
森の精霊はどうだろうか?
今さら戦争を否定することはできない。私も戦士ではないものの、ガレンテ連邦の人間として日々を生きている。戦争が需要を生み、技術の革新をもたらしているのも事実だ。しかしEVEゲート崩壊後、カルダリ人が1万5000年かけて深めてきたこの惑星との連帯の歴史を考えると心中穏やかではないというのが正直な気持ちである。
最後にカルダリ・プライム周辺宙域に残る歴史の証人を紹介しておこう。
Luminaire Ship Graveyards
位置 : Luminaire星系 – Algogilleスターゲート付近
戦略的に重要なAlgogilleとつながるスターゲート付近にある、戦いの跡である。無数の艦船のがれきが残る中、ひときわ目を引くのが大型シャトルの残骸だ。
見慣れない型のシャトルだが相当に巨大な船体には無数の被弾の痕が見て取れる。長い船体は最終的に小惑星にその中腹が激突し、その小惑星を抱き込むような形のまま朽ち果てている。完全に残骸になっている……はずだが、未だにコクピットの両側のランプが点灯しているのが不気味ですらある。
Caldari Monument
位置 : カルダリ・プライムより約1.1AU
現在ではカルダリもカルダリ・プライムに対する一定の支配権を持つとは言え、宙域に存在するステーションはガレンテ連邦のものに限られる。そのような状況の中、過去のカルダリステーションの遺跡がモニュメントとして残されている。
一見するとあからさまにアマー帝国を讃えるようなこの像の意味が不明であるが、おそらくこれはそれこそモニュメントの存在のアピールするために設置されているものだろう。
というわけで、この像のことはさて置き、ステーションの遺跡である。カルダリらしい実戦的ともいえる重厚さが漂う作りだが、廃墟になってしまうとこの重厚さは石棺が如き雰囲気を漂わせる。宇宙に散り、行き場をなくした多くのカルダリ人の魂が、ここで同胞の迎えを待っているかのようですらある。
調査後記
私は疲れ切っていた。
地理的には気軽に来ることができるが、やはり幾度となく歴史の表舞台に登場する場所であるし、軽く扱うにはあまりにも史実が重すぎるからだ。
それにしても、今回の調査は惑星の地理的要因が見事に民族の特性へとつながり、その特性が今のNEW EDENの一端を担うカルダリ連合の在り方の根本となっていることが実感できた、とても有意義なものであったと思う。これこそ人類学的調査と言えるのではないだろうか。
まだ文献の編纂作業が始まったばかりなので薄い内容になってしまっているだろうということが心残りだが、編纂が進めば、必然的に再調査の必要も生まれてくることだろう。もっとも、こちらの研究とは関係なく、歴史が動き、この惑星がまた主役になれば、同様に再調査に赴くことになるだろう。
しかし、それが平和的な動きだと想像させてくれるほど、今までの歴史は甘いものではなかった。今日もカルダリ・プライムにはCold Windをはじめとする風の精霊たちが吹き荒れているのだろう。それは決して人間にとって優しいものではないだろうが、戦火に比べればどうか? 少なくとも精霊たちはカルダリ人の心の支えとなってきた存在なのだ。
答えの出ない迷いを抱きつつ、私はカルダリ・プライムをあとにするのだった。
University of Caille 人類学部第7調査班
首席研究員 Saaren Arma