アマー星系へ
私は今、黄金色に輝く宇宙をバックに、とあるステーションに向かっている。
アマー帝国の商都として名高い、Emperor Family Academyだ。
そう、今回の現地調査はこのステーションがあるアマー星系だ。その名前からも明らかな通り、アマー帝国の首都星系。当初は私が属するガレンテ、そしてその宿敵とも言えるカルダリに関する調査が主になっていたが、しばらくはアマーに関する研究を進めようと思ってのことだ。
最近になって、アマー帝国に関する網羅的概要を記した文献の翻訳を終え、ガレンテ連邦と比べて考えるととても興味深く感じられる存在だと感じるようになった。
まずは、あまりご存じない方のために、大まかにアマー帝国の特徴をまとめておこう。
- NEW EDEN最古かつ最大の帝国 – 西暦16470年の建国以来、単一の帝国として存続し続けている。
- 神権制帝国主義国家 – 皇帝による専制国家であるが、皇帝以下末端の国民に至るまで宗教とその教義を行動規範とする。
- 有力家による皇位継承 – 皇位は六つの王家それぞれの継承者候補の中から選ばれる。この王家はArdishapur家、Kador家、Kor-Azor家、Sarum家、Tash-Murkon家、そして近年皇位継承家として復帰したKhanid家である。また、皇位を継承できなかった継承者候補は「Shathol’Syn」という自殺の儀式によって命を絶たなければならない。
- ホルダー制 – 皇帝の下、ホルダーと呼ばれる領主達が支配者層として君臨している。
- 奴隷制 – アマー人にとって、アマー人以外のすべての種族は侵略の対象であり、侵略された種族は基本的に奴隷としてホルダーに使役される運命である。この侵略行為は聖典に基づくReclaiming(奪還)と呼ばれる教義により、堕落したアマー人以外のすべての者を、再び神の恵みの下にいざなうためという大義名分を与えられている。この奴隷制の最大の被害者はミンマター人だろう。
あまりにも大まかなまとめなので、時間のある方はぜひ上記の文献をご覧いただきたい。
正直なところ、私は最近まで上に書いたようなアマー帝国の性質から、この国に良い印象は持っていなかった。いや、今でも良い印象は持っているとは言えないだろう。自由も平等もない。他人はすべて征服し、奴隷化する。自由なガレンテ社会で育った者で、こういう国を好きになれる方がどうかしている。それでも、研究を進めるにつれて、この国は私の興味を強く引くようになってきたのである。
アマー帝国は他に類を見ない安定的な国家であることは否定できない。先に書いたようにその建国は西暦16470年、YC暦で換算すると紀元前6766年となり、実に7000年近く続いてきたということである。ガレンテ、カルダリ、ミンマターの各帝国が成立したのは宇宙時代からであり、アマーとは比べものにならない。確かにガレンテも連邦以前、宇宙時代以前から政治的連続性を持ってはいるが、単一の権力が続いてきたわけではない。この「ガレンテ民族の歴史」の文献翻訳をご覧いただければわかってもらえるだろう。
この安定性の理由は何か?
もちろん皇帝に集約された権力、その権力による圧政という側面もあるだろう。しかし、単なる圧政だと7000年は続かない。むしろ私の今までの研究からは、アマーの「宗教」という存在こそが最も大きな理由だという結論に至っている。
国民の生活、思想のすべてがこの宗教の教義に基づいている。これは下層国民に限ったことではなく、権力者たるホルダーや皇帝までもがこの信仰の下にあるのだ。(かつて皇帝が道を誤った時も宗教的権力によってそれを正されたことがある)侵略も奴隷制もすべてこの宗教によって正当化されているし、皇帝やホルダーの権力も神からの使命を帯びて与えられたものなのだ。即ちアマー人は母星を制覇した頃から、宇宙へ進出した現在に至るまで、その宗教の下で団結し続けてきたとということであり、これこそがアマー帝国の安定性の原動力と言えるのではないかと思うのだ。
アマー星系のステーション
さて、前置きが長くなってしまったが、今回のテーマはこの恐ろしくも魅力的なアマー帝国の現地調査である。そろそろEmperor Family Academyへ到着する頃だ。
アマー星系第8惑星の軌道上に浮かぶこのステーションは、帝国の古き栄光を讃えるモニュメントと、今の威光を顕す4隻のタイタンを従え、アマーだけではなく各地から訪れる軍人、商人たちを迎えている。
私にとっては得体の知れないアマー帝国だが、さすがにここは商都。思っていた以上に活発な船の往き来があり、安心して入港することができた。ステーションの後ろに控える第8惑星(Oris)も居住惑星らしい美しい大地と海を見せてくれる。
この星系は9つの惑星を有し、アマーの母星であるアマー・プライムは第3惑星である。この大帝国の母星系なのでさぞかし色々な施設で賑わっているだろう……と思っていたのだけれど、星系に浮かぶステーションは、このEmperor Family(皇族家)直轄のアカデミーを入れてわずか三つ。
この第8惑星軌道上にあるもうひとつのステーションは、カルダリ系小売り大手「Expert Distribution(エキスパート流通)」の小売ステーションだ。まずはそこへ向かってみよう。
ずいぶんと毒々しい色使いだが、NEW EDENに散らばるこの企業のステーションは、だいたいこのタイプのようだ。小売業大手としていかがなものかと少し思った。それはともかく、この企業がこの星系に進出する唯一の他帝国かつ商業ステーションであることを考えると、アマー帝国とカルダリ連合の関係の深さがうかがえる。
ただし、かつてアマー帝国がカルダリ連合と初めて接触した際は、ガレンテ連邦を侮れない相手と見ていたアマーが、それに敵対するカルダリは都合のよい存在だったため見逃したとも言われている。
では、次にもうひとつのステーションへ向かうとしよう。私はそれが浮かぶ第6惑星の月軌道へ向かってワープした。
到着した先にあったのは神学評議会が運営する裁判所「Theology Council Tribunal」だ。下の写真の左上が月、そして右に小さく見えているのが第6惑星(Zorast)だ。この惑星はガス惑星である。
神学評議会という名前だが、実態はアマー帝国における最高裁判所であり、その他宗教問題、異端者の問題なども取り扱う、宗教国家であるアマー帝国では絶大な権力を誇る存在だ。ロースクールの運営も行っている。
というわけで、この大帝国のホームワールドに浮かぶステーションはこの三つのみである。宇宙への進出と拡大のためにはステーションは欠かせない存在だが、宗教国家であるアマーにとって、このホームワールドはまさに聖地。だからこそ、古き良き姿を極力保たせようとしているのかもしれない。そんなことを思う私だった。
アマー・プライムとEmpress Catiz I Honor Guard
そして次に向かうのはアマー人、そしてアマー帝国発祥の地、アマープライムだ。私はこのホームワールドの軌道上に展開しているらしい、現女帝Catiz Iの名を冠する儀仗隊(儀式用の艦隊)の位置へとワープした。
私がワープアウトしたのは、Empress Catiz I Honor Guardと名付けられたこの儀仗隊のまさに先頭。大艦隊を従えるように設置されているFortified Amarr Cathedral(強化版アマー大聖堂)付近だ。「強化版」とあるが、特に武装は見当たらない。私はまず、この儀仗隊の全体を観察することにした。
12隻のAvatar級タイタンを中核に、攻城艦などのキャピタルシップ、戦艦、超大型輸送船からなる大艦隊である。写真ではケシ粒のように見える艦もすべて戦艦以上のものばかりだ。これだけの大艦隊が、大聖堂に従えられ、常に聖地アマー・プライムに敬礼を捧げ続けているが如く鎮座しているのだ。この沈黙の大艦隊が崇高さと同時に、不気味さも感じさせるように思うのは、私が異邦人だからだろうか?
アマー帝国らしいと言ってしまえばそれまでだが、英雄のモニュメントなどではなく、聖堂がこの艦隊の中心にあるところにも、アマー人にとっての宗教の絶対性を感じさせる。
この大聖堂をよく観察してみよう。
ひとつの山をふたつに割ったような構造物に挟まれるようにして、もうひとつの構造物がある。外側の構造物の片方には門を思わせるような空洞がある。この「門」から眺めると、内側の構造物もふたつに分かれているのがわかる。
真上から見ると、構造物の配置がよくわかるだろう。
そして、真上から見ると特に気になるのが、内側の構造物から伸びてプラットホームから突き出でている構造物だ。
外側の構造物を門、そして外壁と考えれば、内側の構造物こそ聖堂の本体だと思われる。そして、その「聖堂」から伸びるのは近づいてみると、明らかにパイプ上の通路であり、宇宙空間に突き出したところにはそのパイプ状通路の出口とそこから続く祭礼場のような平坦な場が設けられている。この平坦な部分は目測でおおよそ300~400メートルほどだろうか。明らかに人間用の場だと思われる。さらに最先端には出っ張りのような場がある。この一連の構造物はまっすぐアマー・プライムの方を向いている。儀式の折にはここに僧侶達が並び、最高位の僧侶が出っ張りの部分に立ち、アマー・プライムに向かって祈りを捧げる。そんな光景が浮かばないだろうか? ……私の想像に過ぎないが。
そして私は、その「祭礼場」が指し示すアマープライムに目をやった。
広範囲に文明の灯が認められ、反映しているのは一目瞭然だが、実はそれほど大きな惑星ではない。直径7,500km、円周約23,500kmという小型の惑星である。はじめに立ち寄った商都ステーションを擁する第8惑星は、直径95,540kmだから雲泥の差である。商都ステーションがあること、豊富なアステロイドベルトを有することと併せて考えると、経済的な中心はむしろ第8惑星の方なのかもしれない。
ただし、アマーが母星から宇宙に進出し、星系内の惑星の開拓に乗り出したのは母星が繁栄し、人口的にも過密になったためであることは歴史的な事実なので、このアマー・プライムが充分に栄えていることも間違いのないことである。
Chribba Monument
さて、そろそろ調査を切り上げようか。……と思ったが、最後にひとつ立ち寄ってみよう。この間のガレンテ連邦の日に、友人のふりっぷが連邦グランプリの途中で遭遇したモニュメントがこの星系にあるという。私はその位置へワープを開始した。
そう、Chribba Monument。私たちと同じカプセラで、多大な功績を残したChribba氏の記念碑である。
それは、第8惑星の近く、ベルドスパーが採れるアステロイドベルトにあった。
ただ、カプセラ歴が短い私はこの人物のことを知らない。記念碑が造られるほどの、どのような功績を残したのか? 私はモニュメントに接近し、そこに刻まれた文章を読むことに。
ある者は彼をGalNetツールの開発者と、ある者は高額取引のブローカーと、またある者は熱烈なベルドスパー愛好家と見なしている。一般的には単に、ニューエデンで最も信頼できるカプセラとして知られている。
おそらく現代で最も有名なカプセラであるChribbaは、長年に渡り、コミュニティを支えてきた。アマー近辺で、一風変わった採掘船に乗っているところを頻繁に目撃される。
この像は、HZO精錬所とアップウェル・コンソーシアムの共同プロジェクトとしてYC123年に建設されたもので、カプセラコミュニティとニューエデンの経済に対する、彼の多大なる貢献に敬意を表している。
歴戦の勇者の中でもChribbaは信頼と平和の分野で功績を残してきたことが評価されている。彼の成功は、ニューエデンで名を成すための道がたくさんあることを証明すると同時に、カプセラは大胆に自分の道を切り開いていくべきであることを示している。
『他人に自分の目標を決めさせてはならない』 – Chribba
Chribba Monument 碑文
……なるほど。主に平和的な分野でコミュニティ発展に寄与した人物ということだろうか。それにしても「最も信頼できるカプセラ」というのは尋常ではない。私はさらにこの人物について調査を進めた。すると今から10年ほど前のニュースで特集されていた記録を見つけることができた。上の引用をもう少し具体的に書いた部分を引用・翻訳してみよう。
また、Chribba氏はベルドスパーに情熱を傾け、アマー製ドレッドノート級の採掘船「Veldnaught」や、ベルドスパー採掘専用の9種類のスーパーキャピタルシップを擁する「Veldfleet」で有名です。
Community Spotlight – Chribba – “EARLY STEPS AND VELDSPAR”
ドレッドノート級(攻城艦)の艦船を採掘に、しかもベルドスパー採掘に使うあたり、スケールの大きさを感じるのは当然のことながら、遊び心ややりたいことをやるという自由さを感じさせる。
Chribbaは長年にわたり、EVEコミュニティを貴重なツールやリソースでサポートしています。彼が提供する多くのツールがなければ、現在のEVE Onlineはなかったといっても過言ではありません。EVE-Files、EVE-Search、EVEBoardなどがプレイヤー向けの主なツールです。
Community Spotlight – Chribba – BUILDING UP THE EVE COMMUNITY
私たちカプセラの活動は、今でも多くのツールによって支えられている。ここで出てきたツール達は恐らく今の主流ではないだろうが、カプセラ達の黎明期においてとても役に立ったものなのだろう。
Chribbaはゲーム内で数え切れないほどの様々な規模のイベントを企画しました。素敵なLoveCansや高い評価を得ているLoveQuestsはその一例です。また、コミュニティが主催する様々なイベントでもChribbaは注目され、例えば彼のVeldspar Towersや「Chribbas Cottage UNITY station」の防衛を支援しようというものもありました。
Chribbaの絶大な人気と信頼性、そして一般的に平和的なアプローチ(Veldsparが含まれていなければ……)により、Chribbaはニューエデンで受託者として申し分のない資格を持つ数少ない者達の一人となり、しばしば当事者間に立ち高額取引の仲介を行っています。これまでにChribbaが仲介を手がけた取引の総額は、スーパーキャピタル3,000隻を含む、52兆ISKを超える規模だと言われています。
Community Spotlight – Chribba – IN GAME EVENTS
この何でもありの世界では、不特定多数向けのイベントを開催することは意外と困難だろうし、取引の仲介などというのは双方からの絶大な信頼がないと成り立たないだろう。私なら、せいぜいふりっぷとなおみんのケンカの仲裁くらいしか任せてもらえない。このように星間を股にかけた信頼を勝ち取るというのは並大抵のことではない。信頼に足る人物でないといけないのは大前提であるけれど、それをNEW EDEN全域に知らしめるためには、スケールの大きな活動を数多くこなす必要がある。恐らくこの殺伐とした世界には他にも多くの素晴らしい人格者が存在するだろうが、平和的な手段でそれを知らしめることができる人はそうはいない。
ここへ来て、私も彼の記念碑が建立された理由の一端を理解できたような気がしたのだった。わずかながらではあるが、彼についての知識を得た上で記念碑をもう一度観察してみると、なかなか面白い。
彼が見上げる先ではVeldnaughtがベルドスパーの回りを周回しながら採掘をしている。そしてこの記念碑を囲むようにベルドスパー鉱石が漂っている。月日が流れても、彼はここで永遠にベルドスパーと戯れ続けるのだ。
ゆっくり記念碑を眺める私の横を、このアステロイドベルトで採掘中のJoint Harvesting(ジョイント採掘社)のRetrieverが通過して行く。
やっていることもスケールも違いすぎるけれど、私はChribba氏の『他人に自分の目標を決めさせてはならない』という言葉に勇気を得て、これからも研究の道を邁進しようと心新たにして、モニュメントをもう一度ぐるりと回って、逗留先であるEmperor Family Academyへと帰還するのだった。
調査後記
Emperor Family Academyに到着し、宿泊施設でようやくホッとした。
思いのほか、静かで落ち着いた雰囲気の星系だったが、やはりアマー帝国の中枢だ。無意識のうちに肩に力が入っていたのだろう。
ソファでくつろぎながら今日の調査を思い返す。すべてが荘厳で、やはり統一的意思を感じる。宗教によってまとまった国であることは当然だが、やはりそれを構成しているのはひとりひとりの人間であり、それをまとめ続けるためには目に見えない教義だけではなく、それを可視化した「物質」が必要なのではないだろうか? 艦船にもステーションにもそのような意図を感じた……ような気がした。
私は今後の予定を立てようと地図を開け、地理を再確認する。
Khanid家の中枢、Khanid Primeを除いた五つの王家はすべてここ、アマー星系から近い場所に集中している。このことからもアマー星系の中央たる位置付けと堅牢さがうかがえる。今回の滞在中だけでアマー帝国の全貌を探ることは到底不可能だが、この五つの王家それぞれの中枢の様子は見ておきたい。
ガレンテ人の私からするとNEW EDENで最も残虐で、横暴で、忌むべき帝国。しかし最も長い伝統と文化を持ち、厚い信仰の下でまとまり続けてきた帝国。そんなアマー帝国の研究は始まったばかりだけれど、現地調査を通じてそんなギャップを少しでも埋められるだろうか? 少しでも理解できるだろうか?
道筋の読めないこの調査行を、私は不安に思いながらも期待に胸を膨らませている。やはり私は研究者なのだ。それに不安なら、そもそも大学の研究者がカプセラになった時点から尽きることはなかった。でも、大丈夫。私の脳裏には宇宙に浮かぶ幸せそうなChribba氏の姿が浮かんでいる。
そう――「自分の目標は自分で決める」のだ。
明日の調査のために、今日も眠りに就こう。
おやすみなさい。
2 thoughts on “Saaren調査ファイル 10 – アマー星系”