三人目の幽霊(大倉崇裕)

書籍情報

著者 : 大倉崇裕
発行元 : 東京創元社
単行本発行 : 2001.5 創元クライム・クラブ
文庫版発行 : 2007.6 創元推理文庫

大倉先生のデビュー作となる短編集。季刊落語の牧編集長と編集部員の間宮緑が探偵、語り手を務める「落語シリーズ」の第一作である。

表題作の「三人目の幽霊」は1997年に第4回創元推理短編賞佳作に選ばれた。また、探偵小説研究会 編・著の2002年度本格ミステリベスト10では第6位に選出された。

軽妙なテンポで読むことのできる日常の謎系の短編集ながら、主人公の立場を活かした落語と落語家の内情の描写にも注目の作品。

収録作品

  • 三人目の幽霊
  • 不機嫌なソムリエ
  • 三鶯荘奇談
  • 崩壊する喫茶店
  • 患う時計

こんな人にお薦め

  • 落語好き、または落語に興味あるけどあんまり知らないあなた
  • ロジック型の推理が好きなあなた
  • 落語って大喜利ですか? なあなた

あらすじ

以下文庫版裏表紙より引用

衝撃の辞令を受けて泣く泣く「季刊落語」編集部の一員となった間宮緑は、牧編集長の洞察力に感嘆しきり。

風采は上がらず食べ物に執着しない牧だが、長年の経験で培った観察眼に物を言わせ、しばしば名探偵の横顔を見せるのだ。

寄席の騒動や緑の友人が発したSOS、山荘の奇天烈も劇的な幕切れはご覧の通り。

意表を衝く展開を経て鮮やかに収斂する、妙趣あふれるデビュー連作集。

以上引用終わり

書評

落語好きはもちろん、そうでなくても落語の世界に魅了される逸品

本作は探偵役に季刊落語の編集長である牧さんを、ワトスン役に新米編集部員の間宮緑を配置していることからも想像できる通り、落語が絡む事件を中心とした構成になっている短編集です。

いわゆる落語ミステリと言いますと、まず有名なのは北村薫先生の「円紫さんと私」シリーズが思い浮かびますが、ワタシはまだシリーズ第一作の「空飛ぶ馬」しか読んでおりませんので、その印象だけで判断すると、あちらはあまり落語のコアな部分が扱われている印象は持ちませんでした。読み飛ばしてしまっているだけかも知れませんが。

そして最近読んだ落語ミステリで秀作だと感じたのが、愛川晶先生の「道具屋殺人事件」です。近日中に書評を書きますので詳細はここには記しませんが、こちらは事件の舞台はもちろん、その解決に至るまで落語尽くしの上、落語の「演じ方」という通好みなところまで掘り下げている生粋の落語ミステリと言える作品でした。

では本作はどうなのかと言いますと、簡単に言ってしまうと、その中間。
探偵コンビがその世界では名の通った落語雑誌の編集部員ということで、寄席の楽屋裏の事情にまで迫った描写は、素人目にとても新鮮に映りますが、それほどマニアでないと楽しめないような描き方ではありません。

とは言え、ストレートに寄席や落語家が直接事件の主題となっているのは、最初に収録されている「三人目の幽霊」と最後に収録されている「患う時計」だけであり、「不機嫌なソムリエ」は突然職場であるホテルから消えてしまったソムリエの謎を解くお話ですし、「三鶯荘奇談」は仕事の都合で落語家の息子を預かって赴いた山荘で遭遇した事件を扱います。また「崩壊する喫茶店」では、ある日突然改装のために休業したまま全く再開の動きを見せない喫茶店の謎と、視力を失った緑の祖母が見つめる「白紙の絵」の謎を紐解く……というように、直接に落語の世界を舞台とした物語ではありません。。

もちろんこれらの作品にも、それぞれにある落語がテーマとして盛り込まれてはいるのですが、落語に興味のない方ならそこは無視して、日常の謎系のミステリとして普通に楽しめることでしょう。

で、ミステリとしての出来映え云々よりも、やはりこの作品を落語ミステリとして語るには、やはり将来を嘱望される若手落語家が高座で次々と考えられない失態を演じてしまった謎を解く「三人目の幽霊」と、同じく寄席を妨害するかのように仕掛けられた罠の謎を解く「患う時計」に着目すべきでしょう。

舞台はまさに寄席で、緑達は季刊落語の編集部員ですから、面白おかしく演じられる寄席の世界を裏側から見た描写がふんだんにあり、寄席というものの仕組みや、楽屋裏の仕組み、「一門」というものが落語家にとって持つ意味などを初心者である緑の視点で、同じく初心者である読者にも平易にしかも興味深く伝えてくれます。

事件そのものは、それほど入り組んだものでもなく、トリックも特に目を引くものではありませんが、堅実なロジック型の推理が楽しめます。また、舞台から、登場人物から事件の道具立て、犯行の背景までが落語という世界観に満ちあふれており、それだけでも充分に一見の価値があります。

結論づけると、この作品は「落語」というものを主題に置いてみたり、スパイス的な役割に置いてみたりとなかなか変幻自在な構成ですので、落語好きの方には当然の如く、落語に特に興味のないミステリファンにも充分にお薦めできる作品となっています。

でも、落語ってどんなのかな? と思いつつもあまり触れたことがないといった方がこの作品を読むと、実際の落語に触れてみようかな、と思わせてくれるかもしれませんよ?

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1 comment for “三人目の幽霊(大倉崇裕)

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