タイムスリップ釈迦如来(鯨統一郎)

書籍情報

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著者 : 鯨統一郎
発行元 : 講談社
新書版発行 : 2005.3 講談社ノベルス
文庫版発行 : 2008.3 講談社文庫

女子高生、麓麗(ふもとうらら)がタイムスリップした先で歴史上の偉人と出会ったり、タイムスリップしてきた偉人と出会って歴史に隠された謎を追う「タイムスリップシリーズ」の第三作。

今回、うららがダイビングスクールの講師、吉野と共にタイムスリップしたのは古代インド。ブッダの弟子として仏教を世界に広めるべく、数々の賢者や、ついには老子、ソクラテスをも向こうに回す大活躍をみせる。

こんな人にお薦め

  • 敬虔かつ冗談の通じない仏教徒「ではない」あなた
  • 人類の叡智の中には歌謡曲も含まれると主張するあなた
  • お手軽に仏教の成立の歴史を学びたいあなた(ただし、多少史実と異なります)

あらすじ

以下新書版裏表紙より引用

ブッダはオカマだった!?

老子からソクラテスまで世界最高の叡知を巻き込んで、インドの一ローカル宗教だった仏教が、世界宗教となるまでを描いた、人類史上初「哲学的バカミス」遂に誕生!

現代日本から古代インドへ飛んだ女子高生・麓麗の活躍や如何に。天才・鯨統一郎の「タイムスリップ」シリーズ最新刊!!

以上引用終わり

書評

ふざけ過ぎと言えばその通り。でもなぜか納得、人間・仏陀。

第一作では文豪・森鴎外にラップを歌わせ、第二作では維新の志士たちと共に日本を明治維新に導いた女子高生・うららですが……今回はなんと、弱小の新興教団であった仏教を仏陀と共に世界的教団にしてしまおうという趣向。

ちなみに仏陀はおカマでした。

ひでぇ。

今回なぜか子ども達を更正させる目的で設立されたダイビングスクールに入れられていらっしゃるうららさんですが、そこの経営者である吉野と共にタイムスリップしてしまいます。で、そこで出会った仏陀が、前述の通りおカマさんだったわけですが、その上どう見ても悟りを開いた人のようには見えないところが笑えます。

そんな本作のどこがミステリなのかと言いますと、うららたちは教団を大きくするために、史実上仏陀の十大弟子と呼ばれる面々を教団に引き入れ、なぜか世界制覇まで目論み、老子やソクラテスをも仏陀の弟子にしようとするのですが、それだけの面子ですから当然それぞれがひとかど以上の人物であるわけです。で、彼らの出す無理難題に答えることで見事仲間にしてゆくという形で、広義のミステリに……なってるような気がしないでもない。

あえて言うなら、鯨式歴史新解釈を実際に当の本人に演じてもらって実証している、という感じでしょうか?

鯨先生の作品のデビュー作「邪馬台国はどこですか?」に代表される歴史新解釈ものは、具体的な現在の事件が関わるものもあれば、歴史の謎それ自体を題材とするものもありますが、それはやはり謎解きありきのミステリなんですよね。でも、このシリーズはちょっと違う。

言ってみれば歴史上の偉人の「意外な素顔」を活き活きとした描写で描くことが主題の、正味の「物語」なんですよね。ただ、そこに鯨先生独特の史実を下敷きにした歴史新解釈があるので、荒唐無稽なのに、なぜかただの荒唐無稽と笑い飛ばせない味わいがあるのでしょう。本作における仏陀はおカマですが、それにすら、うっかりしていると納得してしまうような理由付けがあったりするわけです。

タイムスリップ森鴎外」でもそうでしたが、仏陀にしても普通これほどまでに一般的なイメージからかけ離れた人物として描いてしまうと、面白いかどうかは別として、少なくとも読者からすると「誰?」状態になってしまいそうなものです。なのに、なぜか鯨先生の書くこのシリーズの登場人物達は、もしかしたら本当は……とほんの少しは思わせてくれるのです。

歴史上の人物が架空の物語や事件の主人公になる、というパターンは数多くありますが、この作品の場合は違うのですね。あくまでも史実の新解釈を物語にしているわけです。みんなが知っている「釈迦族の王子が興した新興教団が、数々の弟子を従えてゆき、世界有数の教団となってゆく」という歴史の流れの結果はそのままに、そこに至る過程を新解釈をベースにして、もしかしたらこうだったのかもよ? とばかりにぶつけているのです。

もっとも、老子が○○で、あんな超絶バトルがあったり、やっぱりちょっぴりお色気シーンがあったり、ババンババンバンバン♪だったり、もともと特別な唯我独尊♪(ふりがな : オンリーワン)だったりと、最終的には史実どころの騒ぎではないのですが(笑)。でも、「鴎外ラップ」ほどの衝撃はなかったですかねぇ? (この段落はネタバレ防止のため、説明不足です!)

その辺の昭和的おふざけも含めて、見事なまでに鯨クオリティ。

どうにもこうにも、題名からしてB級というかバカミスというか、そんな香りがそこはかとなく漂ってくる上に、どうやらそれは的外れでもないのですが、それでもなぜか自信を持ってお薦めできてしまう、不思議な作品でございました。

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