晩夏に捧ぐ - 成風堂書店事件メモ(出張編)(大崎梢)

書籍情報

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著者 : 大崎梢
発行元 : 東京創元社
単行本発行 : 2006.9 ミステリ・フロンティア
文庫版発行 : 2009.11 創元推理文庫

しっかり者の杏子と不器用だけど勘の鋭い多絵の成風堂書店員コンビが事件を解決する、シリーズ第二作にして初の長編。

今回は成風堂書店を離れて、長野県の老舗書店で起こった幽霊騒動と、その裏に潜む27年前の事件のつながりを追いかける。

こんな人にお薦め

  • 本屋さん大好きなあなた
  • 前作を読んだあなた
  • 本格度の高さにはあまりこだわらないあなた

あらすじ

以下文庫版裏表紙より引用

駅ビルの書店で働く杏子のもとに、長野に住む元同僚・美保から手紙が届いた。

彼女の勤める地元の老舗書店に幽霊が出るようになり、おかげで店が存亡の危機にあると知らされた杏子は、アルバイトの多絵と共に信州へ赴いた。

だが幽霊騒ぎだけでなく、二十七年前に老大作家が弟子に殺された事件をめぐる謎までもが二人を待っていて……。

人気の本格書店ミステリ、シリーズ初長編。

以上引用終わり

書評

うまく広げた風呂敷のたたみ方を失敗!

ちょっとした事件を多絵さんの推理で見事解決 ―― そんないつのも成風堂書店の一コマで始まったこの作品ですが、語り部である杏子さんの元同僚、美保さんからの呼び出しによって、今回二人がやってきたのは、遠く離れた長野の高原にある老舗書店「まるう堂」

どうやらこのまるう堂で、立て続けに幽霊騒動が起こっているということで、杏子さんと多絵さんは今回正味の探偵として事件のど真ん中に飛び込んでゆくのです。

すごいぞ!書店員! と思いつつも、ンな馬鹿なと言ってしまいそうな展開ですが、ここはさすがの大崎先生。 老舗の本屋さんの持つ独特の味わいや風情、そして反面厳しい現状を丁寧に描写することで、彼女たちがまるう堂を守るためにやってきたということが、それなりに自然な流れに感じられるように、いつしかなっておりました。

そして、今回は先生初の長編ということで、事件はただのお化け騒動では終わりません。

27年前に長野の地で起こった有名作家の惨殺事件が絡んできます。

このあたり、多絵さんご一行が美保さんのお膳立てで幽霊騒動の関係者を訪ね歩くうちに、どんどん関連性が濃くなってゆき、いつしかそちらの事件解決が主題になっていく様が自然で、なかなかよい感じです。

ミステリとしてですが、その作家先生を殺したとされているのは、先生に世話になっていたはずの弟子の一人であるということで、トリックがどうこうというよりは人間の内面を探っていくタイプのミステリとなっています。 それも、ある人について観察する人が違えばその受ける印象もまったく異なってしまうという、人間の主観の曖昧さが中心に据えられており、感じられる薄ら寒い雰囲気はなかなかのものです。

ただし、先生が死ぬ間際まで書いていたであろう、書きかけの原稿用紙の束が消え去っているという、本格ミステリらしい謎も据えられており、ノーマルな本格好きの興味もそらされません。

が、しかし。

残念です。

ここまでうまく風呂敷を広げてきたのに、たためてません。少なくとも本格ミステリとしては。

犯人の動機とか、事件当時の行動とか、いろいろ不自然に感じるのは、まあワタシの主観として横に置いておいてもいいですが、多絵さんがどうやって真相にたどり着いたのかが、さっぱりわからないのが致命的です。

もちろん、推理の根拠を説明はしているのですが、どうにもこうにも「それって想像でしょ?」というレベルで、大勢を集めて犯人を指摘するにも、犯人が27年も前の犯罪を白状するにも弱すぎます。証拠もほぼ皆無と言って良い状態ですし。これがまだ、2~3年くらい前の事件というならかろうじて許容できないこともありませんが、27年は長いです。その長きにわたる沈黙を破らせるには、あまりにずさんで、一足飛びな推理だと思います。

イメージとしては、お話自体は長編に見合った膨らませ方をしたけれど、解決は短編のそれだった、という感じでしょうか?

とはいえ、全体としては大崎先生らしい、さわやかさと素朴さ、そしてその反対の人間の黒さが同居した独特の空気に溢れた作品であり、楽しめなかったということではありません。

前作を読んだ方になら、続き物として読んでおく価値はあるとお薦めできますが、この作品から入る方には、特に「本格ミステリ」として入ろうとしている方には自信を持ってお薦めはできません。

う~~む。

評価の難しい作品です。

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