QED 東照宮の怨(高田崇史)

書籍情報

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著者 : 高田崇史
発行元 : 講談社
新書版発行 : 2001.1 講談社ノベルス
文庫版発行 : 2004.3 講談社文庫

歴史マニアの桑原崇(くわばら たかし)とその後輩棚旗奈々(たなはた なな)の薬剤師コンビが歴史の謎にまつわる事件の謎に迫るシリーズ第四弾。

本作は三十六歌仙絵巻をめぐる殺人事件と、その鍵となる日光東照宮に隠された謎を解明するものとなっている。

こんな人にお薦め

  • 歴史ミステリがお好みのあなた
  • 日光東照宮に行ったことがあるあなた
  • 日光東照宮に行ったことも、興味もないあなた

あらすじ

以下文庫版裏表紙より引用

「三十六歌仙絵」を狙った連続強盗殺人事件が発生。不可解な事件の手がかりは意外にも日光東照宮にあった。

「陽明門」「山王権現」「三猿」「北極星」「薬師如来」「摩多羅神(またらじん)」「北斗七星」。

桑原崇が東照宮に鏤められた謎を解き明かした時、天海僧正が仕掛けた巨大な「深秘(じんぴ)」が時空を超えて浮かび上がる。好調シリーズ第4弾!

以上引用終わり

書評

日光東照宮は高田先生に宣伝料を支払うべき

シリーズ前作「QED ベイカー街の問題」では、珍しく虚構の世界をその主題としたものでしたので、いわゆる歴史ミステリとしては軽い感じに仕上がっていましたが、本作では再び高田先生のお家芸的テーマに戻ってきました。

タイトルに「東照宮」あるとおり、物語の本筋は日光東照宮に来ていた奈々が、たまたま時殺人事件の謎を追って東照宮に来ていた崇、同級生の小松崎と出会うところから始まります。

その事件とは、三十六歌仙絵を狙った強盗殺人事件なのですが、実際の三十六歌仙絵を見てみたいという崇の希望で、後水尾天皇宸筆の歌仙絵がある日光東照宮に来ていたということです。実際物語中では、歌仙絵について、特に佐竹本といわれる数奇な運命を辿る歌仙本について詳細に語られるのですが、やはりこの物語における謎の中心は、日光東照宮そのものなのです。

私は大阪人だからなのか、徳川家康ってなんだか好きではないし、日光東照宮にも興味がありませんでした。というより、一番映像で取り上げられる陽明門の極彩色で煌びやかな外観が、なんだか侘び寂の対極にある成金趣味のかたまりみたいに思えて、バカにしていた感があります。だから、この作品もQEDシリーズでなければ手に取っていなかったと思います。

しかし、読み終わった今、日光東照宮は、もっとも行ってみたい名所ランキングのTOP3に入る勢いです。

だから言える。

日光東照宮に行ったことがない、興味がない人にこそこの作品を読んでいただきたいと!

あのごった煮のような(ワタシの脳内イメージ)東照宮には、単にめでたいものが詰め込まれているのではなく、人の知恵、思い、念、執念、怨、がとてつもない濃度で明示的もしくは暗示的に込められ、しかもそこから当時の歴史的、政治的背景までもが透けて見えるという、壮大すぎる物語が存在していたのですね。

頂点を極めた徳川家康を中心に、敗北した豊臣家やその家臣、江戸幕府の傀儡としての地位に押し込められた天皇家、家康の威光を背景にその裏で蠢く者たちすべての情念が、大胆に、時に繊細に東照宮のあちらこちらに刻みつけられている様は圧巻です。ホントにこの物語は、日光東照宮の宣伝作品として採用してもいいんじゃないか? って勢いです。まあ公式見解とは違う解釈も多いでしょうから、無理ですかねぇ。

なんだか本格ミステリの書評とは言えない雰囲気になってきましたが……w

この、歴史ミステリ的部分については、シリーズ第一作の「QED 百人一首の呪」でこそ、ちょっと小説としては専門的すぎて取っつきにくい方も多かったようですが、第二作「QED 六歌仙の暗号」で、その分野の知識が薄い人にでも分かり易く、それでいて深く理解できるようなスタイルになっており、本作も同じような感じです。歴史については素人の奈々がうまくクッションとして使われている感じです。ですから、日本史が「キライではないけど、あんまり詳しいことは知りません」って方にちょうどいい感じです。

で、肝心の事件の方ですが、これもシリーズ当初から比べると、ミステリ要素と歴史要素がきちんとつながりを持ったまま物語が進んでいきます。

ただし、やはり解決は少々弱いように思います。ちょっとあの動機はない。

もちろん創作なのですから、トンデモ動機もあって良いと思うのですが、作品全体が歴史的な謎も非常に理性的に扱っているだけに、トンデモ動機がとても陳腐に見えてしまうのです。それでも、本作では歴史の謎と事件の謎の絡め方に加え、妙な具合に切断された遺体、事件が進むにつれ明らかになる人間関係など、本格ミステリとしてもなかなか読み応えのある雰囲気になってきています。だからこそ、あとは事件の結末部分だけなんですけどね~。

なんにせよ、歴史ミステリとしては当初より卓越しているQEDシリーズですが、本格ミステリとしても作品ごとに完成度を増しているように感じます。

この先のシリーズ作品も楽しみです!

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