妃は船を沈める(有栖川有栖)

書籍情報

著者 : 有栖川有栖
発行元 : 光文社
単行本発行 : 2008.7
新書版発行 : 2010.9 カッパ・ノベルス

火村助教授が活躍する、作家アリスシリーズの第8長編。

「妃」と呼ばれる女性、三松妃沙子を中心として起こる2つの事件を幕間を挟んだ2つの中編で綴る。

こんな人にお薦め

  • 一種幻想的、耽美的な雰囲気が好きなあなた
  • ミステリアスな女性の物語が好きなあなた

あらすじ

以下新書版裏表紙より引用

三松妃沙子。「妃」と綽名される彼女の周りには、いつも若い男たちが集まっていた。

自由で貧しくて、少し不幸な彼らとの時間に彼女は、何を求めていたのだろう。

願い事を三つだけかなえてくれる猿の手に、何を祈ったのだろう。

倫理と論理が奇妙にねじれたような、不可解な二つの事件の背後には、濃くゆらめく彼女の気配があった。

臨床犯罪学者・火村英生、罪深くも誇り高い難敵に挑む。

以上引用終わり

書評

オンナはコワイよ。

本作は、「妃」と呼ばれる妃沙子という女性を中心として起こる事件を描いています。

前半の「猿の左手」では富を築いた妃沙子が、行く先を失った若い男性達を拾って、自分のそばで侍らせて暮らす中で起こった事件が語られます。そして、後半の「残酷な揺り籠」では、その第一の事件のあと、事故により車いす生活を余儀なくされるものの、資産家の妻の座に納まった妃沙子の周辺で起こった事件が語られます。

未読の方には、大勢の若い男を侍らせる妃沙子という女性について、いわゆる女王様的キャラを連想されるかもしれませんが、少し違います。一種女王様的なのかもしれませんが、いわゆる傲慢系の女性ではありません。なんだか夢の中の世界を生きているような、そんなイメージでしょうか? たとえて言うなら、森の中で自分を崇拝するゴブリン達を従えて悠々と暮らす女王? 魔女? そんな雰囲気です。

決して強く服従を求めるわけではないのに、周りの男どもが勝手に服従すると言いますか、崇めたくなるような雰囲気を持った女性として描かれています。

そんな妃沙子は後半の物語では、よき伴侶を見つけ、静かに暮らす貞淑な妻として登場するのです。前半と後半での、この大きな環境の違いにもかかわらず、根底にある魔法的な魅力の水脈が依然として流れ続けていることを感じさせてくれるあたりは、さすが有栖川先生です。しかも、単に魔性の仮面を隠して、資産家の妻に収まってます、といった感じではなくて、人の妻としての今の暮らしを、ありのままに幸せとして受け入れている感じなのに、森の女王のような生活を送っていた当時の彼女と、イメージがきちんと重なると言いましょうか?

このあたりが、単にミステリとしてのトリックとロジックだけではなく、雰囲気や物語で読ませられる作家としての力量なのでしょう。

では、事件についてです。

第一の事件は、妃沙子がお金を貸していた友人の旦那が殺されたというものです。

結末を知ってしまえば、それほど入り組んだものではないのですが、願いを叶えてくれる「猿の手」を小道具にして、奇妙にねじれた構造を見せてくれます。ゆがんだ人間関係によって構築されたミステリ的構造といいますか。

第二の事件は、妃沙子が暮らす家の離れで、以前の取り巻きの一人で、今も妃沙子や夫とつながりを持つ男性が射殺されたというものです。

こちらは偶然起こった地震という素材をうまく絡めながら、密室、アリバイと、通常の本格ミステリ的な要素が中心となります。その解決も有栖川先生らしい細かいロジックの積み重ね的なもので、ファンにとっては馴染みやすい構成です。途中で、作家アリスの口を借りて、安直な、もしくはそれほど安直でもない推論をどんどん斬り捨てるあたり、読者に対する挑戦的なスピリットを感じることができて、楽しく推理させていただきました。

全体として、長編の割に、こじんまりとしたイメージですが、作家アリスシリーズらしい、少し幻想的な雰囲気を味わいつつ、しっかりした推理も楽しめる良作だったと思います。


以下ネタバレです。未読の方はご注意を!


第二の事件で、最後になって覆されることになる推理の前提条件が数点あるのですが、そこはむしろ「なぜそこに疑いが行かなかったのか?」が不思議でした。

サイドボードの裏にあったから使えなかったはずの鍵とか、睡眠薬入りのワインで夫婦両方が眠っていたとか。

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