書籍情報
著者 : 森博嗣
発行元 : 講談社
新書版発行 : 2000.5 講談社ノベルス
文庫版発行 : 2003.7 講談社文庫
瀬在丸紅子・保呂草潤平・小鳥遊練無・香具山紫子の4人組が事件に挑むVシリーズ第4作。
テレビ局を舞台とした殺人事件が、20年前の事故に繋がる。死んだはずの過去の事故の被害者の影が今にちらつく。
ハウダニットとフーダニットがバランスよく配合された作品。
こんな人にお薦め
- 瀬在丸ご一行の華やかさを実感したいあなた
- 論理パズル的推理がお好みのあなた
- あの人は死んだはずなのに……という展開にシビれるあなた
あらすじ
以下文庫版裏表紙より引用
20年前に死んだ恋人の夢に怯えていたN放送プロデューサが殺害された。
犯行時響いた炸裂音は一つ、だが遺体には二つの弾痕。
番組出演のためテレビ局にい た小鳥遊練無は、事件の核心に位置するアイドルの少女と行方不明に……。
繊細な心の揺らぎと、瀬在丸紅子の論理的な推理が際立つ、Vシリーズ第4作。
以上引用終わり
書評
レギュラー陣の人数が絞られた分ミステリとしては濃厚な仕上がり
前作「月は幽咽のデバイス」は結局メイントリック一本槍な、ある意味ミステリ的にはライトな作品だったと思うのですが、本作は多くの要素が意味のあるつながりを持つ、なかなか手応えのある作品となっております。
今回はなんと紅子さん、しこさん、れんちゃんの三人組が東京のテレビ局で行われるクイズ番組に出場するために上京するという設定で、保呂草さんはついでの用事を作って一緒にテレビ局に向かうということになっています。
そう、舞台は東京なのですから、いつものおなじみのメンバーはメインの四人以外、ほとんど出演しません。
機千瑛さんや祖父江七夏、森川素直、林などのファンもいらっしゃることでしょうが、今回はガマンです。その代わりでもないのでしょうが、ミステリ度はなかなかだと思うのです。
冒頭、どうにもこうにも犯人としか思えない女性による、自分を捨てた男に対する殺意を告げる独白から始まります。
当然何かありそうだなと疑ってかかるミステリ脳なワタクシですが、特に不審な点は感じられず、せいぜい「これはもしかして男で、ホモのカップルかもしれん!」とか、少々うがった見方をしつつ先へ進みます。
紅子さん達がテレビ局でリハーサルに臨むその時に、局内で殺人事件が発生するのですが、他ならぬ保呂草さん達がすぐ近くにいたという状況であり、ある意味鉄壁の密室状況です。しかも事件前、最後にその部屋から出てきたアイドル、亜裕美は、女装中のれんちゃんに泣きついて一緒に逃避行してしまうという展開。今回もれんちゃん大活躍です。
さらにれんちゃんと別れたあとの亜裕美さんが第二の事件の被害者に……といった感じで、今回はメインの事件が密室事件である割に、動きのある展開です。クライマックスには少々活劇もございます。
その中で浮かび上がってくるのが、被害者が20年前、自分の運転ミスで死なせてしまったという恋人の存在なのですが、当然これが冒頭の独白と繋がってくることになり、しかも同じ人物によると思われる独白が、物語の要所要所に入ってくるものですから、読者としては当然「死んだはずの恋人が実は生きていて、しかもそれは計画殺人で……!」「それとも登場人物の誰かがその恋人の肉親だったり……!?」という路線をひた走ることになります。
もっとも心の底からそんなありきたりな展開を予想しているわけではないのですが、そう思わざるを得ないくらいの露骨な独白が挟まれるのです。
そして結末は……なかなかトンデモ展開ではありますが、至る所に張り巡らされた伏線が説得力を持ち、それなりに納得させられます。動機はともかく、紅子さんが結論にいたる論理の積み重ねは、なかなか丁寧なもので、ミステリ的には満足だったと言えるでしょう。
それにしても、今回紅子さんご一行が出演の番組は、女子大生スペシャル。
三人のうち一人だけ、しかも一番テレビ的には地味な感じのしこさんのみですやん。
それでもしこさんはともかく、他の現役女子大生にもかかわらず空気同然の存在感の皆様が可哀想でなりません。
それにしても、強烈にナイスセンスなタイトルですこと……。