書籍情報
著者 : 有栖川有栖
発行元 : 講談社
新書版発行 : 1995.5 講談社ノベルス
文庫版発行 : 1998.5 講談社文庫
火村助教授が活躍する、作家アリスシリーズ。
国名シリーズにしては珍しい長編作品。
裏磐梯に建つ北欧風ログハウス「スウェーデン館」で起こる殺人事件。
いわゆる雪密室ものだが、謎解きはあくまでもロジカルに見せる有栖川先生らしい作品。
こんな人にお薦め
- ちょっと感傷的なミステリが好きなあなた
- トリックとロジックの双方をご所望なあなた
- 殺人のあった夜には必ず雪がやんで足跡が残ると信じるあなた
あらすじ
以下新書版裏表紙より引用
ミステリ作家・有栖川有栖が取材で訪れた雪深い裏磐梯には、地元の人々からスウェーデン館と異名をとるログハウスがあった。
彼は珍客として歓待されるが、深い悲しみを湛えた殺人事件に遭遇する――。
有栖と犯罪臨床学者・火村英生の絶妙コンビが、足跡のない殺人事件に挑戦!
大好評〈国名シリーズ〉の第2弾!
以上引用終わり
書評
童話のような雰囲気に彩られたミステリ
様々なブルーに彩られた五色沼のある、雪深い裏磐梯で起こる悲劇。
作家アリス・国名シリーズとしては珍しい長編です。
アリスが逗留する迫水夫妻が経営するペンションと、スウェーデン館と呼ばれる北欧風のログハウスの、雪で隔たれた二つの山荘が事件の舞台です。
いわゆる『雪の密室』ものですが、スウェーデン館を中心にアリスの泊まるペンションと、離れを配置することで、より凝った構成となっています。
しかし、この物語の魅力は殺伐とした殺人事件の舞台であるにもかかわらず、美しく優しい雰囲気に満ちあふれている点にあると思います。
冒頭で語られる三年前に起こった金髪の、天使のような少年、ルネの死。
その悲しみの影を抱きつつもスウェーデン館で仲むつまじく生活を送る、父親で童話作家の乙川リュウとスウェーデン生まれのヴェロニカ夫妻。
そして、そこにはヴェロニカの父親、ハンスとリュウの母親、育子も一緒に仲良く暮らしている。
なんと言いますか……ここで陰惨な事件は起こって欲しくないなぁというのが正直なところです。
殺人事件の、家族の誰が被害者になっても、誰が加害者になっても、この美しい家族風景は壊れてしまうでしょうから。
そうはいってもやはりミステリです。
絵描きとして、作家のリュウと交流のある綱木淑美と輝美の姉妹、スウェーデン館を建てた建設会社社長の等々力、失業中のリュウの従弟、葉山悠介達が集まるスウェーデン館に推理小説の取材といううさんくさい理由で隣のペンションに滞在するアリスが揃った時、やはり事件は起きてしまいます。
スウェーデン館の離れで起こった殺人事件。
犯人を推理する『アリス』の前には、当然のようにやんでいた雪の上に残された足跡の謎が立ちはだかります。
そう。
火村先生は来ていないんですね~。
もちろん推理がうまくいくはずもないアリスからの救援要請に応えて後半、火村先生は登場するのですが、このシリーズの醍醐味はアリスと火村先生の掛け合いにあると思うワタシには、そこがちょっと不満だったりします。
謎に関しては、メインの密室トリック自体は多少実行に無理があるように思わなくもないですが、一応伏線も張られています。
そして、その犯行を証明するために、折れた煙突、なくなった枕カバーなど細かく配置された手がかりを火村先生がロジカルに組み立ててゆくさまが鮮やかに描かれます。
やはり、トリックがどうであれ、それを証明する方に重点があるところが、有栖川先生らしいと感じました。
それにしても、学生アリスと作家アリスの両シリーズ、普通に考えれば学生アリスの方が叙情的、感傷的な雰囲気が勝ちそうな設定だと思うのですが、なぜか作家アリスシリーズの方が文章にそのような雰囲気を感じます。
まあ、学生アリスシリーズの三作が、デビューから立て続けに先に執筆されているので、有栖川先生の筆力が上がってきただけなのかもしれませんが。
このあたりのセンスが、殺伐としたミステリという分野ながら、女性ファンも多い秘訣なのかもしれませんね?
やはり、有栖川先生も、この物語風景をあまり壊滅的な姿にはしたくなかったのでしょうか?
悲しい結末ながら、将来における再生がわずかながら期待できる終わり方でヨカッタヨカッタ。
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