りら荘事件(鮎川哲也)

書籍情報

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著者 : 鮎川哲也
発行元 : 東京創元社
文庫版発行 : 2006.5

※ 初版は1958年8月に光風社より刊行されている。その後も改題されたものも含めて、秋田書店、角川書店、講談社などから刊行されている。

※ 管理人が読んだのは1992年3月刊行の講談社文庫版である。

本格の巨匠・鮎川哲也先生が「黒いトランク」に続いて発表した長編ミステリである。
探偵役は鬼貫警部と並んで鮎川先生の代表的名探偵である星影竜三である。

こんな人にお薦め

  • 本格ミステリらしい本格ミステリがお望みなあなた
  • 理論構築型のミステリが好きなあなた
  • 社会派要素なんていらないあなた

あらすじ

以下講談社文庫版裏表紙より引用

秩父の山荘に7人の芸術大学生が滞在した日から、次々発生する恐怖の殺人劇。
最初の被害者は地元民で、死体の傍にトランプの“スペードのA”が意味ありげに置かれる。
第2の犠牲者は学生の1人だった。
当然の如くスペードの2が……。

奇怪な連続殺人を、名探偵星影竜三はどう解く?

巨匠の本格傑作。

以上引用終わり

書評

純粋培養本格ミステリの傑作

良くも悪くも「THE 本格ミステリ」です。
山荘で次々に起こる殺人事件。
愛憎入り乱れる人間関係。
殺害現場に残されるトランプのカードの謎。
犯人はどのような方法で目的の被害者に毒を盛ったのか?
犯人はなぜこのような凶器を選んだのか?
被害者が持っていた謎のメモ。
動機は?
そして犯人は?

まさに本格ミステリ的興趣に満ちあふれたフルコース的作品になっています。
が、その反面、物語のすべてがミステリのためのお膳立てです。
すなわち物語としての深さとか、人間描写のリアルさとかそんなものはどうでもいい、純粋培養な本格ミステリなのです。

一緒に山荘に泊まりに来た芸大生の仲間達は、とても一緒に旅行するなんて考えられないほどいがみ合っています。
山荘が閉ざされているわけでもないのに、仲間が次々殺されても、彼らはそこから離れようとしません。

その上刑事が泊まり込んでいるにもかかわらず、どんどん殺されます。
そして困った刑事達はわざわざ素人名探偵の星影竜三を遠方から呼び寄せてしまいます。
わたしが上司なら、間違いなくクビです。

と、まぁこんな感じでとりあえずネガティブな感想を先に言っておいたところで、この作品の真価に触れようと思います。

この作品は、先に述べた荒唐無稽さにもかかわらず、やはり本格ミステリとしては秀作としか言いようがない素晴らしい出来なのです。
大トリックはありません。
少々アクロバティックな(そして現代の視点で見れば多少古めかしい)トリックはありますが、基本的には登場人物達の何気ない言動に隠された真の意味を読み解き、それを積み重ねることで真相に至る、いわゆる「ロジック積み重ね型」のミステリです。

読んでいて有栖川有栖先生のデビュー作「月光ゲーム」を思い出してしまいました。
もちろん内容的には全く異なりますが、有栖川先生が鮎川先生の影響を強く受けているということがわかったような気がします。

それにしても、このようなタイプの謎解きの場合、作中にちりばめられた伏線の張り方がポイントになりますが、ここがなかなか難しいところ。

伏線が分かり易すぎてはもちろんいけませんが、あまりに何気なくやってしまってもいけません。
謎解きの時になって読者も忘れてしまっているような伏線が山盛り出てきてしまったりすると、なんだかわけがわからなくなってしまいますし。

その点、この作品の伏線は伏線だと言うことは比較的分かり易く、印象的に書かれているにもかかわらず、うまくミスリードしてくれますので、謎解きの段階で実に気持ちよい気分が味わえます。

同じ鮎川先生の作品でも「黒いトランク」ほどの重厚さは感じられないものの、逆に多様なミステリ的要素がちりばめられているという点で、娯楽作品としてはこちらの方が素直に楽しめるようにも思います。

本格ミステリファンを自認する方なら、やはり読んでおくべき一冊でしょう。


以下、ネタバレありです。未読の方はご注意を


りら荘の留守番、万平さんの奥さんであるお花さんが残したメモに関しては「やられた!」って感じでした。

由木刑事も東京まで行って、より一層謎をふくらませてくれますし、まさかまるまるミスリードだとは……。
まあ、犯人がうそをつくというのは当然のことではあるのですが、読者が疑うポイントを実にうまくずらした、そんな尼さんの証言でした。

ただ、動機だけはちょっと弱すぎるような気がしますねぇ。

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