サムソンの犯罪(鮎川哲也)

書籍情報

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著者 : 鮎川哲也
発行元 : 東京創元社
文庫版発行 : 2003.5

※ 初版は1976年刊行のトクマ・ノベルズ版で、その後1982年、徳間文庫版も刊行されている。

バー三番館を舞台とした安楽椅子探偵ものの短編集シリーズ第2作。

ハードボイルド張りの元刑事の探偵「わたし」が地道な調査の末にたどり着くのはいつもここ。
今夜も常勝無敗のバーテンの推理が冴える。

収録作品

  • 中国屏風
  • 割れた電球
  • 菊香る
  • 屍衣を着たドンホァン
  • 走れ俊平
  • 分身
  • サムソンの犯罪

こんな人にお薦め

  • オーソドックスな本格推理を楽しみたいあなた.
  • 安楽椅子探偵ものが好きなあなた
  • 気楽に読書気分なあなた

あらすじ

以下文庫版裏表紙より引用

肥った弁護士がもたらす仕事でもっている「わたし」の私立探偵事務所。
終始ぶつくさ言われながらもお雇い探偵でいられる理由は簡単で、外見を裏切る腕前でもって事件を解決するからである。
捨て身の仕事ぶりが実を結ぶのかというとそうでもない。

調査が迷走し始めると〈三番館〉へ。
「わたし」の軍師はここにいる。

以上引用終わり

書評

安楽椅子探偵のツボはここにあり

探偵の「わたし」が肥った弁護士から依頼を受けた事件に行き詰まった時に決まって訪れる、バー「三番館」

バイオレットフィズを傾けながら、三番館のバーテンに事件について語ると、いつも変わらぬバーテンらしい丁寧な物腰で事件はあっさり解決。

そんな短編集です。

わたしはこのシリーズを読んで真っ先に連想したのは、鯨統一郎先生の「九つの殺人メルヘン」などの桜川東子シリーズでした。
それはバーが謎解きの舞台となっている、安楽椅子探偵ものということから連想したものですが、本書(創元推理文庫版)の解説で霞流一さんが触れられているのはアイザックアシモフの名作「黒後家蜘蛛の会」シリーズです。

共通点という意味では、桜川東子シリーズでも間違いではないと思うのですが、さすがプロですね。目の付け所が違います。
「黒後家蜘蛛」では、さまざまな肩書きを持つ名士達が集まる会食において、毎回会員やゲストによって提示される「謎」に取り組むのですが、会員達がああでもない、こうでもないと知恵を絞るのに、いつも最終的に謎を解くのは控えめに脇に控える給仕なのです。

ここで少し、霞流一さんの解説より引用

ここにバーテンの効用があるのだ。客に正対して立つ基本の位置関係と、カウンターの中という制限された行動範囲は自然に安楽椅子探偵の理想的な姿勢となっている。そして、むやみに喋りすぎてはいけないし、また、客が声をかけてくれば節度を持って会話の相手を務めるのがバーテンの作法。これは、謎解きの純度を高める上で実にふさわしいものではないだろうか。

「いつもそこにいる」「無駄なことは喋らない」「あくまでもその場で聴いた情報から推理する」これらの条件が純度高くなるほど、安楽椅子探偵ものとしての性質が際立つことになります。
そう考えるとお客さんではなく、常に「そこ」にいる(イメージの)一種無個性な聞き上手なバーテン(作中での彼の個性は、ステレオタイプなバーテンダーのそれですし、なんといっても名前すらないのですから!)を探偵役に据えたことに大きな意味がありますし、その点をもって「黒後家蜘蛛」との共通性を語ることはまことにもって本質的な指摘だと思うのですが、いかがでしょう?

ただし、本作ではそんな安楽椅子探偵の鏡のようなバーテンの代わりに、探偵の「わたし」が(よい意味で)実にチープなハードボイルドな感じで走り回り、迷推理を披露してくれますので、退屈はしません。

ご安心を。

少し堅苦しくなってしまいましたが……。

物語自体は短編集らしく単調です。

事件 → 弁護士からの依頼 → 探偵の調査 →
バーテンに泣きつく → すんなり解決

まあ、こんな感じですが、書かれた時代も1970年代ですし、堅実な作風の鮎川先生らしく、非常にオーソドックスな感じでした。
鮎川先生が、このシリーズについては「気楽に綴った」と書かれている通り、トリックもそれほど目を引くものもないし、それほど緻密でもありません。

が、それぞれの物語にはどこか目を引く特徴が一点、綺麗に入っているのですね。
拳銃で貫かれた中国屏風、割られていた電球、ドッペルゲンガー?、ストリーキング!?、大酒飲みで怪力の犯人??? 等々。

どれもこれも、推理小説として派手な装置というほどではありませんが、地味な作風の中でのその一点の彩りは、モノクロームの写真の中、そこだけカラーで表現された一輪の花のように印象的です。

ですから、本書は基本的に決められた物語のレールに乗って気軽に読み進めつつ、それぞれの物語に配置された特徴的な舞台装置に素直に目を奪われて……わかったつもりになったところをラストで軽くひっくり返されて楽しむ――そんなちょっとした知的遊戯的な楽しみ方をするのに向いています。

なんというか、現在の新刊でこれほどストレートな短編集はかえって少ないようにも思いますので、普通に本格推理の小品を気軽に楽しみたい時にはよい作品だと思います。

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