書籍情報
著者 : 鯨統一郎
発行元 : 祥伝社
新書版発行 : 2009.9 ノン・ノベル
若き日の空海こと真魚(まお)が、四国の地で道中を共にする京の官人・橘逸勢(たちばなのはやなり)の眼前で見せる奇蹟の数々を描いた連作短編集。
六郎太と静の室町ミステリシリーズの長編、空海が薬子の変の謎に迫る「まんだら探偵 空海 いろは歌に暗号」の世界観を引き継いだ作品となっているので、当サイトでは本作も室町ミステリシリーズの1冊として扱う。
収録作品
- 第一話 加持霊水の奇蹟
- 第二話 大瀧飛剣の奇蹟
- 第三話 天狗問答の奇蹟
- 第四話 隔河書額の奇蹟
- 第五話 室戸伏龍の奇蹟
- 第六話 小児活生の奇蹟
- 第七話 釈尊出現の奇蹟
こんな人にお薦め
- 「まんだら探偵 空海」を読んだあなた
- ライトな短編集をお望みなあなた
- ミステリもいいけど、とんち話も好きなあなた
あらすじ
以下文庫版裏表紙より引用
延暦十六(七九七)年、京の官人・橘逸勢は修行の旅で讃岐の国の串谷村に立ち寄った。そこでは顔が爛れる奇病が蔓延、村人を苦しめていた。
逸勢が都から持ってきた薬も効かず、途方に暮れる人々。その前に現われたのが真魚(後の空海)だった。襤褸布を纏った冴えない修行僧は信じられない現象を起こし、村を救うが……。それは空海が四国で起こす奇蹟の始まりだった。
彼方から大剣を飛来させ、離れた場所から額に文字を書き、死んだ子供を蘇生させる……数々の空海伝説の真相に迫る傑作歴史ミステリー。
以上引用終わり
書評
「まんだら探偵 空海」を読んだ人にはお薦め!?
う~ん。真魚が四国各地でその土地の問題を解決するために奇蹟を起こすという趣向の連作短編集です。
シリーズ前作では「まんだら探偵 空海」というライトなタイトルとは裏腹な骨太歴史ミステリだったのですが、本作は打って変わってかな~りライトなノリになっています。鯨先生といえば歴史ミステリですが、この作品は時代物ではありますが、歴史ミステリとは言えない感じですのでご注意下さい。
物語自体も単調な感じです。そして読者が考える謎は、もっぱら真魚のなした奇蹟のトリックなのですが、そのトリック自体も突飛なものはあるものの、まあ一種の手品的なものがほとんどですので、ミステリ的な謎解きというよりも、マジックのタネを考えるといった感じになっております。
ただし、空海という人物自体が膨大な伝説を持つ超人ですので、もしかしたらこの作品に出てくる奇蹟にも元ネタがあるのかな? ワタシは知らなかったので単純な手品的作品に見えてしまいましたが、もし元ネタがあって、それをご存じの方ならとっても楽しめるのかもしれません。
鯨先生の作品にはこういうとことんライトなものもありますので、ファンの方には普通にお薦めできるのですが、やはり鯨先生のことをあまり知らない方にはお薦めしにくい作品です。どちらにせよ、前作で高僧然とした最澄と対比して描かれた無碍な人・空海のルーツ的雰囲気を楽しめますので、前作を読んでから読まれることをお薦めします。