パラダイス・クローズド(汀こるもの)

書籍情報

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著者 : 汀こるもの
発行元 : 講談社
新書版発行 : 2008.1 講談社ノベルス

第37回メフィスト賞受賞作にして、汀先生のデビュー作。

死を呼び寄せる死神少年、美樹が海洋生物蘊蓄を語りまくり、双子の兄、真樹が事件の謎を解く「THANATOSシリーズ」第一作。

本作ではミステリ作家が集う孤島で起こる殺人事件という、ある種本格への挑戦とも受け取れる作品になっている。

こんな人にお薦め

  • 魚好きなあなた
  • やっぱり魚好きなあなた
  • 古くさい本格ミステリは叩かれるべきだと主張するあなた

あらすじ

以下Amazonより引用

周囲の者が次々と殺人や事故に巻き込まれる死神体質の魚マニア・美樹と、それらを処理する探偵体質の弟・真樹。

彼ら美少年双子はミステリ作家が所有する孤 島の館へ向かうが、案の定、館主密室殺人に遭遇。犯人は館に集った癖のあるミステリ作家たちの中にいるのか、それとも双子の……?

最強にして最凶の美少年双 子ミステリ。

第37回メフィスト賞受賞作。

以上引用終わり

書評

海洋の神秘は楽しめる

死を呼ぶ少年、美樹。そして、彼にくっついて周りで起こる事件を解決する、双子の弟で高校生名探偵の真樹。警察は高校生ながら事件の処理におわれる真樹に助手をつけている――冒頭で語られるその設定自体が、現実的に見た場合の本格ミステリの矛盾点を克服しようとする意図を感じさせます。

最近の本格ものにはこのパターンが多いような気がします。

なぜ、探偵役の周りで都合よく事件が起こるのか?
一般市民の探偵が警察の捜査に介入できるのか?

そんなこと個人的にはどうでもいいと思うんですけどねぇ。

それはさておき、内容ですが。

ごめんなさい。

読みにくい。

なぜでしょう?

そんな難しい文体で書かれているわけでもなく、むしろ平易。

おそらく、語りが原因だと思います。この物語でのいわゆる語り部は、真樹の助手任務に就いている刑事、高槻っぽいのですが、地の文が高槻の語りっぽかったり、第三者視点のようであったりして、なんだか気持ち悪いのですね。で、読むリズムが悪くなり、丁寧に描写されている美樹と真樹はともかく、他の登場人物達のイメージがいつまで経っても頭に定着しないのです。

汀先生のデビュー作ということで、単に技量的なものかもしれませんが、文章として魅力を感じるところはありませんでした。やはりプロットや謎が大切な本格ミステリとはいえ、まずは読ませる文章であってほしいと思います。

ちょっと皮肉に聞こえるかもしれませんが、この作品の一番の魅力は美樹によって語られる「魚うんちく」です。

魚といっても、その対象は単なる魚類に限られることなく、微生物にまで及ぶ水棲生物全般にわたり、自然における生命の連鎖の壮大な物語が語られます。物語の半分くらいはコレなんじゃないか? というより、汀先生はミステリよりこっちを書きたいのが本音じゃないのか? と思ってしまうほどの熱弁が美樹の口を借りて語られます。

それはさておき、一応ミステリとしての評価を書きますが、やはり微妙。といっても、事件の骨格自体はそれなりに練られていますし、特に酷評するほどのものではありませんが、やはり先に述べた記述のまずさで、どうにもこうにもわかりにくいのです。練られていいるだけに、記述がマズイと理解しにくいと言うか。

そして、本作では孤島に集められた人間がミステリ作家達という設定なのですが、いちいち昔から語られる「本格の手法」にとらわれるミステリ作家達をあざ笑うかのような――「俺たちはそんな作法通りにはやらないよ?」的な表現がされており、ちょっとうっとうしいです。現代のミステリで本気で「ノックスの十戒」通りに書いている作家さんなんていないでしょうし、なんだか存在していない、抽象的な観念にケンカ売ってる感がして、滑稽でもあります。

実際この作品も、普通に本格ミステリなわけですし。

ただ、これも最近の本格ものには良くある手法で、「推理小説では~~となるのが常套手段だけど、現実(この小説)は違うんだ!」的なことを登場人物にいわせることで、安易に「この作品は斬新だぞ!」っていうことをアピールしすぎます。物語自体でその斬新さを見せつければよいのであって、いちいち古いルールを持ってきて、この作品はそんなものにとらわれてません、みたいな宣言はしなくて良いです。作家さん、しかもこれから世に出ようという作家さんであれば、自分の作品の独創性をアピールしたいのはわからなくもないですが、読者もバカではありませんので、「斬新ですよ~!」ってストレートに言われたからって、そんなにあっさりそれを信用しないでしょうし、かえって底の浅さを露呈します。

純文学は別にして、いわゆる流行する作家さんの作品というのは、意外と設定の奇矯さで勝負はしていません。いや、設定が奇矯であってもかまわないのですが、それ以前に人を惹きつける文章があっての話です。難しい文体であっても、平易な文体であっても、文章自体のセンスというものがそこにはあります。(好みはありますけれど)そして、センスのある文章なら、斬新すぎなくても充分に読者を唸らせることはできるし、そこにさらにさりげなく斬新な視点を取り入れることで、名作になり得る、そういうものだと私は思います。

この作品は汀先生のデビュー作ということで、その後も順調にこのシリーズの続編が出版されているのを拝見しますと、私の見方が偏見にすぎるのかもしれませんし、どんどんよくなっているのかも知れません。この作品自体は、失礼ながらやはり自信を持ってお薦めはできかねますが、あえて汀先生の別作品にもいずれ挑戦して、良いな! と感じることができたなら、この記事にもその旨は追記したいと思います。

酷評失礼いたしました。

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