書籍情報
著者 : 谷原秋桜子
発行元 : 富士見書房
文庫版発行 : 2001.2 富士見ミステリー文庫
発行元 : 東京創元社
文庫版発行 : 2006.11 創元推理文庫
※ 富士見ミステリー文庫で「激アルバイター・美波の事件簿 天使が開けた密室」として刊行され、シリーズ第二作「龍の谷の秘密」も続いて刊行されたが、レーベル自体がミステリ色を薄めるのと並行してシリーズは途絶えていた。その後東京創元社から改めて既刊2冊が発売され、シリーズ続編も同社より発表されている。
失踪中の父親を捜す資金稼ぎのためにバイトに励む高校生、倉西美波が巻き込まれる事件を、友人の直海、かのこ、美波の天敵の大学生修矢と共に解決する「美波の事件簿」シリーズ第一作にして谷原先生のデビュー作。
本書には2001年10月発表の同シリーズ短編「たった、二十九分の誘拐」も収録されている。
こんな人にお薦め
- ライトな学園もの的なノリが好きなあなた
- 軽いテイストでもしっかりしたミステリでないとダメなあなた
あらすじ
以下文庫版裏表紙より引用
行方不明の父親を捜すため、倉西美波はアルバイトに励んでいる。
そのバイト先で高額の借金を負うハメになり困惑していたところ、「寝ているだけで一晩五千円」というバイトが舞い込んだ。喜び勇んで引き受けたら殺人事件に巻き込まれて……。
怖がりだけど、一途で健気な美波が奮闘する、ライトな本格ミステリ。期待のシリーズ第一弾!
短編「たった、二十九分の誘拐」も収録。
以上引用終わり
書評
ラノベの皮を被った本格
パステル調の女子高生のイラストが表紙を飾るこの作品。
創元推理文庫でなかったら買っていなかったことでしょう。
それでもおそるおそる購入したこの本をめくってみると、おお、なんだか本格ミステリっぽい病院の見取り図が、そして謎めいたプロローグ。なかなか本格っぽいじゃないですか。
しかし、本格的に開幕してみると、普通の女子高生な美波とスポーツ万能の直海、お嬢様系のかのこの三人組と、天敵なのになぜか気になる大学生、修矢といういかにもラノベ系なキャラ構成で、一抹の不安に襲われました。(本格ミステリとして、と言う意味の不安ですが)
で、父親探しの資金稼ぎのためにアルバイトに励む美波ですが、コンビニバイトでヒドイ目にあい、あげくに病院内での葬儀屋の遺体運搬のアルバイトをすることになってしまいます。なんだか悲惨な娘です。
それにしても事件がなかなか起こりません。
病院ですからがんがん死体が出てくる割に、殺された死体が出てきません。
まあ、美波がなかなか活き活きと描かれていますし、葬儀屋の裏事情みたいな部分もあって、それほど退屈はしませんでしたが。
そして、物語も半分を過ぎた頃、ようやく殺人事件です。
地下の霊安室で起こった殺人ですが、衆人環視の密室です。いきなり本格ミステリのど真ん中に直球で突っ込んできました。
状況描写があっさりとした感じですので、細かく見れば穴はあるのかもしれませんが、まず、刑事の娘である直海の正当派な推理を持ってきておいてから、さらに二転三転させた上でのアクロバティックな結末。
そのラノベテイストに誤魔化されそうになりますが、本格ミステリとしてなかなかの出来映えだと思います。前半の日常描写の中にも多くの伏線がしっかり張られており、その伏線は、普通の伏線の他、ミスリード用の伏線、アクロバティックな結末を読者に納得させるための決めの伏線と多様なものとなっております。
とにかく読書感、読後感が軽いので、ついつい軽く読み流してしまうともったいないです。ただし、名探偵役の修矢の推理ですが、もう少しこの推理の道筋というものを読者に見せる方向だと、より一層本格的な本格ものになると思います。もちろん当初はミステリ系とはいえ、ラノベレーベルで発表された作品ですので、このくらいがちょうど良かったのかも知れませんが、今やミステリマニアが集う魔窟、創元推理文庫からシリーズ続編を発表をされているのですから、このあたりの変化を期待して次回作以降も読んでみたいと思います。
また、行方不明の父親を捜すためにアルバイトに励む、という美波の設定がありますので、この辺の父親探しの要素が今後のシリーズ作品にうまく絡めることができれば、なかなか楽しそうです。
それにしても、発表の場を失っていたこのシリーズを、拾い上げて復活させた東京創元社さんはさすがですねぇ。
あと、同時収録の短編の方は……ちょっとライトすぎですねぇ。もう一ひねりは欲しかったところですが……まあ、メインの出来がよかったので、軽い番外編ということで納得しておきますw
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