書籍情報
著者 : 森博嗣
発行元 : 講談社
新書版発行 : 2000.9 講談社ノベルス
文庫版発行 : 2003.11 講談社文庫
瀬在丸紅子・保呂草潤平・小鳥遊練無・香具山紫子の4人組が事件に挑むVシリーズ第4作。
アクロバット飛行中の殺人という一種の密室殺人と、美術品「エンジェル・マヌーヴァ」の二本立ての謎で構成された作品。このあとも登場するジャーナリスト、各務亜樹良(かがみ あきら)も初登場。
こんな人にお薦め
- 程よい手応えの密室トリックに挑戦したいあなた
- 大人な保呂草さんのファンなあなた
- 飛行機のフォルムにロマンを覚えるあなた
あらすじ
以下文庫版裏表紙より引用
アクロバット飛行中の2人乗り航空機。
高空に浮かぶその完全密室で起こった殺人。
エンジェル・マヌーヴァと呼ばれる宝剣をめぐって、会場を訪れた保呂草(ほろくさ)と無料招待券につられた阿漕(あこぎ)荘の面々は不可思議な事件に巻き込まれてしまう。
悲劇の宝剣と最高難度の密室トリックの謎を瀬在丸紅子 が鮮やかに解き明かす!
以上引用終わり
書評
派手な密室トリックと宝剣の謎の両方を楽しめる、贅沢な逸品
前作「夢・出逢い・魔性」ではテレビ局という一種派手な舞台で大暴れだった瀬在丸ご一行。
本作では、れんちゃんの先輩で、エンジェル・マヌーヴァの所有者の娘である関根杏奈さんが所属する、エアロバティックチームの飛行ショーが舞台ということで、さらに華やかな印象に。さらには曰く付きの宝剣「エンジェル・マヌーヴァ」の在処を巡って暗躍する保呂草さんと、初登場の各務亜樹良さんの活躍で、とってもエンターテインメント性が高くなってきたVシリーズです。
まず、事件の方は、密かにエンジェル・マヌーヴァの在処を探る各務亜樹良が同乗したアクロバット機のパイロットが射殺されるというもの。パイロットが後ろに乗っていたとはいえ、普通に考えれば各務さんが怪しいということになるわけです。
で、もちろんその機体は墜落しますが、パラシュートで脱出した各務さんは、偶然それを発見した保呂草さんを巻き込んで逃走開始。この辺の各務さんのビジネスに徹したやりとりはなかなかクールですが、森作品の典型的な女性像と言えなくもありません。
そこに、いつものように林さんと祖父江さんが捜査に乗り出し、各務さんと一緒に逃げた男が保呂草さんではないかと疑いを持ち始めたところで、第二の殺人が……といった事件概要です。
第一の事件の状況に関しては、飛行中の二人乗り機で起こった殺人ということで、不思議度合いはなかなかです。ただ、不可思議な分、逆に可能性が絞られてしまうので、意外とトリックの骨格に気付く人は多いかもしれませんが、森先生は時々(しばしば?)強引な物理トリックを持ってこられたりもするので、なかなかそちらも捨てきれなかったりいたします。
しかし、そんな派手な事件があっても、この物語の主役はエンジェル・マヌーヴァ。
もともと保呂草さんと各務さんが事件に関わったのも、この宝剣の在処を捜すためでしたし、れんちゃんの先輩の関根杏奈さんはネンジェル・マヌーヴァの持ち主の画家、関根画伯の娘で、今回の飛行前にもこの宝剣がらみとおぼしき脅迫状が届けられているということ。だんだん保呂草さんの裏の顔に絡む謎がシリーズの主題になりつつある予感です。
もっともこちらが主役とは言いましたが、ミステリとしてはあくまでも殺人の方なのです。
こちらは「物語」としての主役なのですね。
曰く付きの宝剣、エンジェル・マヌーヴァの在処を捜す保呂草さんの前に現れた真実は、少し幻想的とも言える、美しい物語でした。
もちろんこちらの真相があって、事件の方も真の解決を見るのですが、そちらもエンジェル・マヌーヴァにまつわる物語の余韻に包まれた、悲しくも美しい結末でした。
ちなみに、この作品にはシリーズのファンにはたまらない展開がもうひとつ。
がんばれしこさん。
わたしは揺れ動くしこさんを応援いたします。
色々と暗号のあるお話でしたねぇ。
はじめの脅迫状に込められた各務亜樹良の名前ですが、念のため。
各行の最後の文字を五十音で一音ずらして、逆から読むとOK!
そして,ヒューズのダイイングメッセージは……まぁ、お遊びかなぁ。
正直なくてもいい。
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