書籍情報
著者 : 大崎梢
発行元 : 東京創元社
単行本発行 : 2006.5 ミステリ・フロンティア
文庫版発行 : 2009.3 創元推理文庫
本格本屋ミステリで、大崎先生のデビュー作。
しっかり者の杏子と不器用だけど勘の鋭い多絵の書店員コンビが、本屋を舞台に起こる身の回りの事件の謎を追いかける短編集。
書店員としての経歴を持つ作者ならではの、本屋の内幕を詳細に綴る作品。
収録作品
- パンダはささやく
- 標野にて 君が袖振る
- 配達あかずきん
- 六冊目のメッセージ
- ディスプレイ ・ リプレイ
こんな人にお薦め
- 本屋に行くとワクワクするあなた
- 日常の謎系が好きなあなた
あらすじ
以下文庫版裏表紙より引用
「いいよんさんわん」 ―― 近所に住む老人から託されたという謎の探求書リスト。
コミック『あさきゆめみし』を購入後失踪した母を捜しに来た女性。
配達したば かりの雑誌に挟まれていた盗撮写真……。
駅ビルの六階にある書店 ・ 成風堂を舞台に、しっかり者の書店員 ・ 杏子と、勘の鋭いアルバイト ・ 多絵が、さまざまな謎 に取り組んでいく。
本邦初の本格書店ミステリ、シリーズ第一弾。
以上引用終わり
書評
「本屋ならでは」な事件が詰まった正真正銘の本屋ミステリ
全編にわたって本屋さんの日常が詳しく綴られています。
ワタシのように、本屋さんに行くとワクワクする人種にはたまりませんが……当然とは言え、なかなか大変そうなお仕事です。
まあ実際、ワタシの周りの本屋さんでは、店員さんとお客さんの心温まる交流などなさそうに感じてしまいますが、それはさておき、この作品の舞台となる本屋さん「成風堂書店」は、駅ビルの中の店舗ということもあり、種々雑多なお客さんが訪れるであろうにもかかわらず、主人公の杏子、多絵をはじめとして、実に真摯にお客さんと向き合っています。
その光景が、リアルな本屋さん業務の流れに絡めて描かれているので、ミステリとして以前に本屋さんの内幕を語る物語としても興味深く読めることでしょう。
そんな温かな雰囲気の本屋さんを中心に巻き起こる事件もまた、当然のように日常の中で心温まる事件ばかり……ではありません。
平和そうな各話のタイトルはもちろんのこと、そのタイトル通りの落ち着いた日常的な物語の流れに紛れて、たま~に、いきなり陰湿な事件の真相が飛び出してきたりするので要注意です。
それがどのお話なのかは、当然……言いません。読んでください。
で、ミステリとしてはどうでしょうか?
寝たきりの本好きなお年寄りからの本探しの依頼の言葉に隠された謎をとく「パンダは囁く」、普段は買わない漫画本を購入したあとに失踪した老婦人と、20年前に息子を亡くしたひき逃げ事件との関わりを紐解く「標野にて 君が袖振る」は、本そのものをテーマとした謎で、暗号解読っぽいテイストも混ざっています。
機転は利かないけど実直に配達作業に勤しむアルバイト、ヒロちゃんに迫る魔の手と、彼女が美容室に届けた雑誌になされていた、そこの得意客を中傷する落書きと盗撮写真の謎を解決する「配達あかずきん」は、細かい手がかりを組み立てて真相にたどり着く、本格ミステリらしい作品です。
入院している娘への差し入れの本を何にしたらよいのか迷っているお客さんに、五回にわたって的確な本をアドバイスしたのは誰だったのか、という謎を扱う「六冊目のメッセージ」は軽い謎ながら、本屋ならではの盲点を突いた軽い驚きを与えてくれます。
ラストの「ディスプレイ・リプレイ」は一般の人と協力して作り上げたある本の特設コーナーのディスプレイを台無しにしたのは誰か、という謎を扱う作品ですが、その本にまつわる盗作疑惑を背景に、ディスプレイの壊され方から犯人はおろか、その動機を暴いていく過程は見事な本格ミステリでした。
全体としては、よく練られた印象で、デビュー作ならではの気合いが感じられました。
が、この作品の魅力はそれに留まりません。
いくつかの物語のラストが素晴らしい。
淡々とした物語なのに、最後の最後でそれがいきなりとびきりのラブストーリーに変貌してしまったり、感動ストーリーになってしまったり。その寸前までまったくそんな素振りもありませんので、ひねくれ読者のワタシでも見事にガツンとやられてしまいました。
はっきり言って、ミステリとしての謎よりも、その部分の切れ味の方が鋭かったようなw
これについても、どのお話が「それ」なのかはココで明かさない方がよいでしょう。
ぜひ、読んで体験してくださいね。
とにかく、日常の謎系の短編集が好きな方なら、間違いなくオススメです!