書籍情報
著者 : 有栖川有栖
発行元 : 東京創元社
単行本発行 : 1989.7
文庫版発行 : 1996.8
有栖川先生のデビュー第二作。また、いわゆる学生アリス(江神部長)シリーズの第二作でもある。
閉ざされた孤島で起こる連続殺人にアリスと江神先輩が挑む。
「読者への挑戦状」付きの本作は、フェアに開示されたパズルのピースを読者に差し出す有栖川先生らしい良作である。
こんな人にお薦め
- トリックよりロジックなあなた
- ミステリを自分でも推理するのが楽しみなあなた
- 江神部長、学生アリスが好きなあなた
あらすじ
以下文庫版裏表紙より引用
南の海に浮かぶ嘉敷島に十三名の男女が集まった。
英都大学推理研の江神部長とアリス、そしてマリアも島での夏休みに期待をふくらませる。
折悪しく台風が接近し全員が待機していた夜、風雨に紛れるように事件は起こった。
滞在客の二人がライフルで撃たれ、無残にこときれていたのだ。
無線機が破壊され連絡船もあと三日間は来ない絶海の孤島で、新たな犠牲者が……。
犯人はこの中に!?
以上引用終わり
書評
望月・織田のコンビが出ないとシリアスになるんです
言わずと知れた、江神先輩の学生アリスシリーズの第二作。
第一作「月光ゲーム」では火山の噴火によって外界から閉ざされたキャンプ場での連続殺人が題材でしたが、今回は「孤島もの」です。
作品に添えられた孤島の地図――円形の北側が大きくえぐれて湾を形成し、三日月か勾玉というような形になっている島、その三日月型の両方の頂点に存在する望楼荘と魚楽荘の二軒の別荘とそれらをつなぐ唯一の道が描かれている――がミステリファンの心をくすぐります。
今回この孤島に乗り込んだのは、江神先輩とアリス、そして推理研の新メンバーであるマリアということで、望月、織田の両先輩はお留守番。
アリスを含めた三人での迷推理の応酬も楽しいシリーズですので少し残念ですが、青春小説的な雰囲気満載だった前作と違って、アリス達以外はいわゆる大人の 登場人物が揃った舞台設定となっていますので、両先輩をお留守番させることで物語の進行も舞台設定に見合った落ち着いたものになっているように思います。
ミステリとしては、アリス達が泊まる望楼荘での密室殺人、平川画伯が滞在する魚楽荘での殺人事件、そして二つの事件に絡んだ偽装自殺(まさか誰も自殺だと思って読むことはないでしょうから、偽装と書いちゃいます)の三点セット。
はじめの密室殺人は、詳細は書きませんが、被害者の死んでいる様が普通ではなく、その不可解な状況に焦点を当てた論理パズルを 楽しむことができ、第2の事件では散らばったパズル、自転車のタイヤの跡と落ちていた紙切れをはじめとして、島全体に散らばる論理のかけらを組み立てる楽 しみがあります。
さらにそこにマリアが三年前にこの島で経験した慕っていた従兄の死の謎と、マリアの祖父が残した宝と島全体に散在するモアイのような像の謎、そして死んだ従兄が残したメモの謎が絡まるという、何とも贅沢な構成になっております。
ロジック中心の有栖川ミステリらしく、妙なトリックで勝負するタイプの謎ではありません。
また読者への挑戦状を入れるスタイルにふさわしく、伏線が必要以上に隠されず(読者の印象にすら残らない箇所をやたらと伏線として使ったりせずに)、手がかりは手がかりと開示した上で読者の謎解きを迎え撃つスタイルは好感が持てます。
物語としては、マリアに焦点を当てたちょっと切ない空気に満たされた物語です。
有栖川先生は切なさ、哀しさを含んだ物語の雰囲気を作るのがミステリ作家としてはホントにお上手だと思います。
特に凝った、難しい表現を多用されるわけではないのに、なぜこんなに雰囲気のある文章になるのでしょうか?
学びたいところであります。
先に書いた通り、望月・織田の両先輩が出ていなかった分、やはりお笑い成分が少なくなるせいか、シリアスな雰囲気が物語全体を支配しており、前作のような青臭い雰囲気は、中原中也の詩をバックに綴られる、アリスとマリアの夜の海でのひとときに凝縮されています。
登場人物については、月光ゲームの時は(レビューにも書きましたが)全員がキャンプ参加中の大学生ということもあり、アリス達以外のキャラがなかなか覚えられずに苦労したものですが、本作はそれぞれ違った背景を持つキャラなのでそれほど登場人物表と首っ引きというわけではありませんでした。
しかし、印象的であったかといわれると、やはり少々??です。
有栖川先生の場合は、メインキャラの側が非常に魅力的に描かれているだけに、特にそう感じてしまうのかも知れませんが。
全体としては、雰囲気重視の月光ゲームに続く作品として、今度はミステリ性を重視した骨太な作品と言えるでしょう。
これら二つの作品のそれぞれで重視された要素が、シリーズ第三作の大作「双頭の悪魔」で融合され昇華されたようなイメージでしょうか?
とにかくミステリとしてオーソドックスに楽しめる良作です。
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