ゲーム情報
メーカー : ニトロプラス
発売日 : 2009年10月30日
ジャンル : スラッシュダーク・アドベンチャー
ニトロプラス10周年記念として発表された。
戦後と戦国時代の折衷的な世界観の中、鍛冶師の魂そのものを封じた最強兵器「剱冑」を従えて戦う武者達を描く、ニトロプラスらしいギャルゲとは思えない硬派かつ鬱な展開で魅せる逸品。
特別制作 – 装甲悪鬼村正
攻略チャート PDF版
結構ややこしい攻略となっているこのゲーム。
とりあえずわたしのクリアまでの足取りを視覚的なフローチャートで作ってみました。
でも、イベント絵フルコンプしてません。(残三枚)
その辺あまり重視してないので……。
でも、複雑怪奇なパズルの攻略も、答えだけではなく攻略の手引きを掲載してますので、自力で頑張りたい人には見てほしい!
こんなの作るの初めてなので、出来が悪いのはご勘弁です~
Story
これは英雄の物語ではない
鍛冶師の魂、鍛冶師そのものを宿す兵器――剱冑(つるぎ)
剱冑は仕手との合一により、武者と呼ばれる世界最強の兵器としてこの世に君臨する。
世界大戦の敗戦の後、島国大和は圧政を極める統治者・六波羅幕府と、大和の実質的支配を目論むつつ傍観するGHQとの間で未だ混迷を極めるが、そんな中さらに民衆を恐怖に陥れる存在があった。
白銀の武者――銀星号。
突如として人里に現れる銀星号は、すべてを殺戮する。
男も女も。
老いも若きも。
そして――善も悪も。
そんな銀星号を追うは、深紅の剱冑「村正」を従える男、湊斗景明。
鎌倉の警官を称し、銀星号を追う中で幾多の悪を葬る彼は、しかし正義を標榜することはない。
「善悪相殺」
忌まわしき呪いを秘めた妖甲の宿命に殉する彼もまた「斬る」のだ。
悪だけでなく―― 善を、愛するものを。
こんな人にお薦め
- ニトロプラスらしい作品をご所望なあなた
- 鬱展開の中から一筋の光明を見いだしたいあなた
- 無口で根暗な男の一級品のギャグセンスに接したいあなた
独断の評価
評価はあくまでも独断です。当然、発売年代も考慮しています。
SからEまでの6段階評価です
グラフィック | A | クールな中にも狂気を秘めた表情のキャラ絵は圧倒的な存在感。剱冑は3Dをふんだんに使った重厚さを見せる。 ただし、背景絵に使い回しが多いのが難点か? |
音楽 | B | BGMは特に印象的ではないものの、和風でダークな雰囲気によくマッチして、BGMとしての裏方的役割を無難にこなしている。 ヴォーカル曲については可もなく不可もなく。 |
システム | B | ワイドスクリーンに縦書きテキストは斬新かつクール。普通のノベルゲームのインターフェイスが野暮ったく見えてしまう出来。 しかし、セーブやスキップの使い勝手に多少難あり。 |
キャラ | S | 文句なし。 善悪相殺の思想の元、すべてのキャラクターが善悪併せ持つ、活きた人物としての魅力を持つ。 |
ハマリ度 | S | とにかく長い……のに途中で投げ出すことなど考えられない。 |
オススメ度 | S | かなり鬱ゲー度合い、残酷度合いが高いのだが、それでもあえて万人に薦めたい。 傑作である。 |
備考 | ニトロプラス創立10周年作品だけある力の入れようが感じられます。 |
レビュー
鬼に逢うては鬼を斬る
仏に逢うては仏を斬る
ツルギの理ここに在り
総論
スラッシュダーク・アドベンチャーと銘打たれた本作。
slash = (刃物などで)ざっくり切る
dark = 暗い
全くもってそのまんまです。
鬱ゲーです。
でも神ゲーでもあります。
困ったものです。
残酷描写が嫌いな人にスラッシュなゲームはお薦めできない……というのが普通でしょう。
鬱ゲーが嫌いな人にはダークなゲームはお薦めできない……というのが普通でしょう。
でも、あえてそんな方々にもお薦めしてしまう暴挙を敢行。
なぜなら、嫌悪感を覚えるほどの残虐さも、引き籠もりになってしまいそうなダークさも、すべて一本芯の通った思想を表現するために欠かせない要素だから。
単に残虐さを売りにするための残虐ではないのです。
単にプレイヤーを鬱にすべく延々と繰り返される鬱要素ではないのです。
幾度となく繰り返される二つの言葉。
「善悪相殺」
「これは英雄の物語ではない」
ここにすべてが集約されます。
善と悪は相対的であるということ。
だから正義という概念も必然的に相対的なものでしかない。
この思想にピンと来る方になら、誰にでもプレイをお勧めします。
この辺のもう少し詳しい考察は下の方をご覧くださいね。
あ。
そうそう。
忘れてましたが。
このゲーム。
相当笑えますよん。
なんでこの鬱展開でこんなにギャグが詰まってるんだっていうくらい……。
正直なところ、そこらのギャグコメディものじゃあ、歯が立たないくらいではないかと思います。
特に我らが主人公、湊斗景明のギャグセンスには脱帽ですが、詳しくは後ほど。
世界観
第二次大戦終戦直後の日本、主に鎌倉周辺をモデルとしています。
統治者は六波羅幕府。
何故か六波羅幕府の雰囲気は江戸時代です。
「幕府」だから仕方ない。
で、戦後日本を語る上で欠かせないGHQも当然存在し、自分たちがすんなりと新たな統治者として国民に受け入れられるように、六波羅幕府の圧政を傍観中。
やはりこの世界でも、白人はダーティな感じです。
そして、剱冑と呼ばれる装備が最強の兵器とされているわけですが、ここにツッコミを入れても一銭の得にもなりませんので、なんの疑問も持たずに受け入れましょう。
冗談はさておき、剱冑は村正、正宗をはじめ古来の名刀や刀工から名を借りたものが多く、雰囲気は抜群です。
ただ、いわゆる量産型の数打剱冑と鍛冶師の魂が入った真打剱冑との性能差がもう少しあってもいいと思いました。
っていうか、村正ちょっと苦戦しすぎです。
主兵装の野太刀が失われていて……というのはわかりますが、もう少し「雑魚どもを一掃!」的なシーンも見たかったです。
キャラクター
頼むからあの好感度メーターはやめてくれ……。
なんといっても鬱ゲーですから……主要キャラ達はみんなどこかでひどいことになってしまうわけです。
また、よりにもよってキャラの存在感が、まんべんなくピカイチですので、もうヘコむことヘコむこと……。
しかし、その凹む原因の総元締め「善悪相殺」の掟があるからこそのキャラクターの存在感とも言えますので困ります。
どういう事かと申しますと、普通のゲームであれば善玉は善玉、悪役は悪役なのですが(悪役が最終的に善玉に回ることはありますが、それはそれで今までの悪行はなかったことのようになってしまうのが常)、このゲームは正義の味方は一面的な正義の味方であることを許されず、悪役もまた、どんなに悪逆を尽くそうとも、一面的な悪者のままでは終わらせてもらえません。
婆娑羅坊主、遊佐童心などはその筆頭でしょう。
悪逆非道。普通の物語でこのお方の「善」の部分が書かれるなんて事はまずあり得ない立ち位置のキャラなのに、あの実にえげつないリョージョク行為をいたされたあとも、実に魅力的に描かれているのが脅威です。
しかも入道の悪事自体について何らの言い訳もなく、「スンゲー悪いことをやった人非人」のままで、悪役とは思えないような言動を見せる、ここがスゴイ!
このようなキャラの扱いを見ていると、ガンガンひどい目にあって死にまくるという面では鬱ゲーなのですが、反面それぞれのキャラクターは、それはもう溢れまくる愛情を込めて作り込まれたようにも感じます。
そんなわけで、それぞれのキャラクターについて書いているときりがないので、特に! 特に気になったキャラについてのみちょっと書いてみます。
湊斗景明(みなと かげあき)
主人公。ひたすら暗い。無口。
でも、このゲーム内随一のコメディアン。
病気持ち。(自覚あり)
アレなシーンになると発症(覚醒)する。
この鬱ゲーの鬱ゲーたる所以をすべて一人でしょって立つこの主人公は、まさに主人公にふさわしい。
戦闘中以外決して乱れることのないダークで丁寧な口調も素晴らしい。
なのに……なのに……なんでこんなに面白い!
(押し倒してまさにアレな場面に突入!という場面における)茶々丸との会話
茶々丸 「こういうことにはラブでロマンなプロセスというものがっ」
景明 「要らん」
茶々丸 「うっ、うー……じゃあ…………せめて、お兄さん……あてのこと、好き?」
景明 「別に」
茶々丸 「血も涙もねぇ!! 欲望だけかー! そんなに可愛いあてを犯したいのかー!」
景明 「それも別に。大して」
茶々丸 「全否定かよ!!」
なんというか、一つの台詞のみを抜き出してその面白さをわかってもらうのは難しいのです。
掛け合いの中で淡々と口をつくシュールな感じが最高なのです。
ああ……イカン。
これではコメディゲームの主人公紹介だ。
でもコメディついでにこんなモノをご紹介♪
何故か唐突に登場のスピカ嬢fromスマガ
景明とのラブコメバトルの行方は!?
というわけで、面白い言動が際立つものの、やはり比重としては大半シリアスなわけですのでご心配なく。
ちなみに、わたしが過去プレイしたゲームの中で主人公の男性キャラとしてはナンバーワンです。
大鳥香奈枝
復讐上等の貴族令嬢。
糸目。
でもお願いだから目を開けないで……。
ある意味登場人物の中で真に狂っていると言えるのはこの人だけなのかも知れない。
単なるお嬢様ではない弾けっぷりを、吉川華生さんが熱演されていますが……困った。
吉川華生さん本人を知らない方なら、なかなかのクレイジーな演技に素直に賞賛を贈れるのかも知れないのですが、本人のキャラを知っていると、吉川さんの持ちネタであるヤンキートークそのままなので、どうしても大鳥香奈枝さんとしては違和感がぬぐえなかったわけです。
もう少しハジける方向がヤンキーと違う方向だったら、良かったのにと思ってしまいます。
でも、ジープ搭載の機関銃をさわやかな笑顔でぶっ放しながらの突入シーンにはやられました。
足利茶々丸
六波羅幕府四公方のひとりの茶々丸さん。
外見的に他のメインヒロインである一条さんや香奈枝さんに比べ、キツい目つきでキャラとしては立ちまくりなものの、ヒロインとしてはどうなんだろうと思って……いた、愚かなわたしを断罪してください。
最強です。
かっこよさ、萌え、哀愁、すべてを兼ね備えています。
茶々丸・景明・雷蝶 夢の揃い踏み之図
なんというか、本当にすべてを把握していたのは彼女なんですよね。
六波羅もGHQも銀星号もある意味彼女の手の中。
イベント絵のかっこよさもピカイチです。
特に茶々丸END、最後の闘いのあとの景明とのツーショット絵は上記三要素が詰まった珠玉の逸品です。
基本的に悪巧み大将なのに、会話ではそのいじられっぷりが際立っています。
そのいじられっぷりの一端は、上の景明の項目で掲載した掛け合いを見てもおわかりでしょう。
というわけで、声優はワタクシは敬愛する金田まひる朕、きんた師匠でございます。
コチラも吉川華生さんと同じくわたしにとってはご本人自体のキャラをWEBラジオなどを通してよく知っているので、やはり初めは茶々丸のキャラとしては違和感がありました。
が、攻略も中盤を過ぎ、茶々丸ルートに入ってくるとどんどんその違和感はなくなっていきました。
要するに、それまでサブキャラとして権謀術数を駆使し、色々裏を知ってそうなだけのキャラであったうちは違和感があったのですが、本人のルートに入り出番が多くなって、いろいろな面が出てくるに従って、きんた師匠の声が持つ独特のやんちゃっぽさや、いじられてナンボ的雰囲気がピッタリはまってきたということです。
ワタシ的にはこのゲームの中で、主人公の景明と並んでもっとも好きなキャラクターであります。
正宗くん
キャラ紹介コーナーなのにすみません。
メインヒロインの一条さんを差し置いて、コチラの紹介です。
剱冑です。
綾弥一条が操るこの剱冑。
よく妖刀村正と対比して語られる名刀正宗を由来とするだけあって、悪を許しません。正義の権化。
なのになぜ?
なんだか全剱冑の中でも抜群の狂気を見せてくれるのでござる。
仕手の骨身を引きちぎって弾と為し、肋骨は鎧を突き破って敵を捉え、終いには「投擲腸管」なる文字通りのおぞましい技をも駆使して……正義を……貫く?
なんか、すっごく悪役チックなんですが?
- 基本スタンス「正宗は正義を貫徹する。それのみが肝心。他は瑣末事」
- 攻撃時の奇声「DAAIEDARAAAAAAAHHH!!」
- 笑い声「キハーッハッハッハッハッハァーーーッ!!」
- 極めつけ – 投擲腸管によって内臓をぶちまけさせられた一条へのいたわりのひと言
「痛くない苦しくない! 腸なんぞ所詮は消化器、物を食う時以外は無くても困らん!」
すげぇよ……。
どんだけまっとうな悪役っぷりなんだか……。
永倉さよ
香奈枝の従者……ですが、慇懃無礼。
この人は何かあるなと思わせつつ……。
やはり最強でした。
もしかして、全登場人物の中で実力No.1ナノデハ?
そりゃビーチでも彼女を見つめちゃうってもんですよ。
今川雷蝶
イ……イカン。
さっきのマサムネくんの項を書いたおかげで、雷蝶の蝶が「腸」と変換されてしまう!
勘弁してください。
わしの健全なATOKを返してくれ。
というわけで、北斗の拳のユダさまを思わせるムキムキのおカマキャラの雷蝶さん。
もうね。
愛おしい。
六波羅幕府四公方のひとりにして、大将領足利護氏の実子。
なのに陰謀に向かないのに陰謀大好きなその性格のせいで、常に遊佐童心、獅子吼、茶々丸にいいようにあしらわれます。
でも、考えようによっては一番の常識人。
護氏が死んだ時も、普通に「盛大な葬式しなきゃ」って言ってたのは雷蝶だけだし。
プライドが高くて、誘惑に弱くて、狡猾な手を好むのに、狡猾になりきれない。
こんなにも人間臭い雷鳥さまを愛おしく感じるのは、人として当然の帰結なのです。
しかも……しかも……実はそんな雷蝶さんこそが六波羅幕府軍最強のファイターだったなんて!!
そう!
権謀術数なんて彼には不要だったのです。
作戦は「突撃!斬る!」
それで万事OKな無敵超人なのです!!
なのに、見せ場が……。
最後の方、むっちゃカコエエのに、戦闘シーンがほとんど省かれているという悲運の人。
これはファンディスク雷蝶スペシャルのへの前振りなのでしょう!
そうでなくてはならない!!
わたしは今川雷蝶を支援します。
他にもいっぱい魅力的な登場人物が目白押しなのですが、もうこの辺でやめときます。
ちなみに雪車町一蔵は、なんだか人気投票すれば上位に来そうなキャラですが……残念ながらわたしは好きではありませんので、あしからず。
システム
とにかく見た目は洗練されています。
ワイド画面とその中央に配置される縦書きテキストが和風テイストの強い本作品にはピッタリでした。
演出面も恐怖感を煽る技巧に富んでいて、うまく雰囲気を盛り上げていたと思います。
ただ、個人的には数点の不満点が。
・ セーブ数が少ない。
100カ所と言うことですが、選択肢が多くBAD直行の選択肢も多い本作なので、自力コンプを目指す人にとってはもう少しほしいところか?
・ 超速スキップが超速じゃない
そのまんまです。
・ 背景の使い回しが多い
これって意外と興をそぐんですよね。手が回らなかったのか、初めからの予定通りだったのかは知りませんが、残念な点です。
・ あのフライトシミュ風の戦闘画面はどうも……
戦闘シーンにふんだんな「動」の要素を盛り込もうというのはよいのですが、フライトシミュを実際にいじるわたしとしては、あのインターフェイスはやはり飛行機のものであって、人型ロボットのものではないと感じてしまうのです。
音楽
あまり語ることはないかな?
良くも悪くも和風でダークな雰囲気にあったBGMが多く、目立ってこれは! という曲が思い当たらない代わりに、BGMとしての役割は十二分に果たしていたと言えます。
それだけ物語世界に合っていたということですね。
ボーカル曲も悪くはないけど、正直それほど鮮烈さを感じませんでしたが、別に不満ではありません。
Nitro+の前作「スマガ」では、数々のヴォーカル曲がもはや物語上必須とも言える立場を獲得するだけの良作揃いでしたが、この装甲悪鬼村正はそもそもヴォーカル曲で雰囲気も盛り上げるタイプの作品ではないので、それでよいと思います。
シナリオ
共通ルートのあと、各ヒロインのルートに分岐するスタイル。一条の「英雄編」
香奈枝の「復讐編」
上記の二つのルートを攻略後、茶々丸と銀星号の中の人(公式で書かれていないので、今さら自粛)の「魔王編」と続いて、最後は○○のルートである「悪鬼編」で締めくくられます。
なげぇよ……。
でも、それでも、物足りない。
神ゲーならではの感慨です。
まず体験版として公開もされている共通ルートの第1編なのですが、わたしはあまり深く考えずに楽しんでいたので、いかにもメインヒロイン的な小夏があんなことになってしまった時には、一瞬ついていけませんでした。
そしていかにも主人公の良き友人、普段おとぼけだけど決める時は決めるやつ的な忠保が、そんな小夏にあんなことをしちゃった時には「おいおい……この鬱展開どうやって取り返すんだ!?」と感じたものです。
なんだかおかしいとは思っていたのですよ。
公式サイトに主人公として載っているのは、なんだか陰湿そうな変な男であって、ヒロインとして載っているのも小夏じゃなかったから。
でも、余りに王道的なヒーロー的造形の雄飛にヒロイン的な小夏、そして忠保。
まったく手抜きなく作られた彼ら三人組。
さらにかなりおいしい濃いキャラの女友達までがいて、行方不明になった彼女を捜すために困難にもめげずに立ち向かう姿。
いくらきな臭いとは言っても、この正当派ヒーロー・ヒロインがまさかあんなことになるなんてねぇ……。
思わないだろっ!!!
でも、わたしはまだその時は、呪われた妖甲村正を使わざるをえない景明が、その宿命に苦しみながらも頑張って悪を退治するお話かな? なんてお気楽に構えていたものです。
だから、その後も鬱展開でありつつも、今思えば意外にそれを(ゲームとしてですが)楽しんでいた感じがあります。
で、迎えた英雄編。
悪を憎む正義の少女、綾弥一条の物語。
村正の対極として出てきた正宗のあまりの正義バカッぷりにあきれつつも、ようやくこの物語の主題に気付かされます。
作中何度も繰り返される「これは英雄の物語ではない」という言葉。
これは単に主人公が悪のみを叩き斬る正義の味方ではないからいわれている言葉ではなく、人の命を奪う者が「英雄であってはならない」という積極的意味を持つものだと。
そこに気付くと物語世界はとたんに深い意味を持って、わたしに迫ってきました。
圧政を敷く六波羅幕府の面々、いかにも黄色人種を見下した感じのGHQ将校はもちろん、それらの「悪」に対抗する者や無差別殺戮を繰り返す銀星号にいたるまで、単純で分かり易い「善悪」という物差しで区別できなくなってくるのです。
これをやってしまうと、読み応えはでてくるものの、話が途方もなく広がりすぎて、並の筆力では収めきれないのではないでしょうか?
シナリオの奈良原一鉄さんには、本当に脱帽です。
そして、変わらぬ結末を目指しながら正義を標榜する一条と悪鬼を称する景明の物語はツライ結末を迎え、次に始まったのはつかみ所はないけれど、なんだかイヤなモノを秘めていそうな貴族のお嬢様、大鳥香奈枝の物語が幕を開けます。
復讐編ですからね……。
当然復讐です。
復讐の鬼です。
でも、彼女の過去の所業を見るに、「いやぁ。いろんな人に復讐されるべきはあなたではないでしょうか?」と言いたくなるほどのマッドネス。
なのですが、じつはワタクシ、このルート全体の印象としては、マッドネス香奈枝嬢よりも、彼女の復讐の対象として描かれる景明の印象や、村正なんかよりもよっぽど呪われたナニカであるに違いないさよばぁさんの印象の方が強いのです。
なんですか?この凛々しさは?
香奈枝さんはキャラとしてはとても印象的なのですが、どうもサブキャラとしての方が光り輝くと言いますか……。
謎めきすぎていて、彼女自身の葛藤よりも、明確に強い悩みを抱える景明を導く役割のほうがメインになってしまった感じです。
さよさんとの対比については、さよさんの方が上手だったとしか言いようが……。
そして、次に開かれるのがクライマックス「魔王編」
茶々丸ルートであり、銀星号の中の人ルートである魔王編ですが、わたしの中では完全に茶々丸ルートです。
銀星号とのバトルは、もはや武者同士の闘いではなく、どんな大スペクタクルなんだっ! と突っ込まざるを得ないもので、少々やり過ぎではないかと……。
それにしても、良い結末だと思うものの、結局銀星号の中の人だけが、全編を通じて満ち足りた終わりを迎えているような。そこにちょっと釈然としないモノを感じつつも、呪われた宿命に殉じてきた景明のためにも、景明の手にかかった無辜の人たちのためにも、ここだけは綺麗に締める必要があったのでしょう。
それはともかく、茶々丸をこよなく愛するわたしとしては、茶々丸ENDで繰り広げられたはずの六波羅最強武者・雷蝶VS茶々丸・景明連合の夢のバトルを堪能したかったのですが……。
それだけが残念でなりません。
そして物語は最後の悪鬼編に続くわけですが、これはエピローグ的なもの。
ここは触れずにおきましょう。
全体的にシナリオを総括すると、いろんな剣術に関する蘊蓄混じりの戦闘シーンは、なかなか興味深く、面白くもあるのですが、少々冗長に過ぎるように感じられます。
しかしそれでもこの大作を、わたしは飽きることなく読み切ることができました。
確かに登場人物が魅力的であればあるほど、より悲惨な末路を辿るということ自体に慣れてしまうほどの、超絶鬱展開なのです。
しかしそこに何故か融和している多くのギャグ要素もあり、とても話の大筋からは想像できないくらい笑わせていただきましたし、バトルも上述の通り冗長さは感じさせるものの、手に汗握る、アツい展開続きで楽しかった。
そして、何より「善悪相殺」
この要素が単にプレイヤーを鬱にさせるための要素ではなく、物語の根本を為しつつ、登場人物に魂を吹き込み、すべての登場人物をより一層深く、魅力的に創りあげる源といえるまでに練り上げられているからこそ、この作品は傑作となったのでしょう。
実に見事な、良い意味でお子様厳禁の18禁ゲームであると断言できる良作です。
「善悪相殺」について
いうまでもなく本作のメインテーマ「善悪相殺」
決して目新しい視点ではありません。
大多数の人ならば、「絶対的な正義なんてあり得ない!」「善と悪は表裏一体さ!」なんて事は理解できるところでしょう。
でも、日々世の中を観察していると、とてもではありまえんが多くの人がこの概念を理解しているとは思えないわけです。
毎日のようにメディアで流される数々の事件。
殺人事件、傷害事件、暴行事件、政治家の汚職……。そんな事件を見るにつけ、ただただ単純にこれらを純粋に「悪」として糾弾できる素晴らしい方々。(もしくは、お涙頂戴な理由があるから悪くないと認定できる方々)
または、最近よくある「ブログ炎上」などに象徴されるように、人のちょっとした不用意な発言に対して無責任にキレることができる、実に立派な正義の味方な皆様。
すなわち、自分の心に物差しがあるのと同様に、他者には他者の物差しがあることを無視できる方々。
そんな人には「善悪相殺」は字面上でしか理解はできないのではないでしょうか?
かといって自分が全くもってそんな浅はかな心理から遠く離れた彼岸にいる人間だとは言えないし、むしろ既製品の善悪基準で塗り固められている存在にしか過ぎないところが辛くありますが……。
ただ少なくとも、自分は「善は善」「悪は悪」と割り切れないと日々、常々感じてはいます。
で、そこをきっちり割り切れるぞ、という心情の方にはこのゲームはお薦めできません……とも思うのですが、やっていただいてどんな感想を持つのか聞いてみたい気もいたします。
余談ながら、最近著名人が悪いことをしたときに、公の場できちんとした謝罪をしなければ許せない、そんなタイプの人間が増えているように思います。
わたしはそれを、醜いと思います。
実際自分がなんの被害を受けたわけでもないのに、公の場であたかも有名な人、えらい人が自分に向かって謝罪しているように思い込んで悦に入っている、そんなさまを醜いと思っています。
まったく、あんたら何様だ? って話です。
話がそれましたが……。
湊斗景明は妖甲村正の「善悪相殺の呪い」―― 一つの悪を斬れば、己の愛するものも一つ斬らなければならない ―― それに従って善も悪も斬り捨てます。
無論苦悩します。
しかし、その苦悩の中でも彼は村正の呪いを否定しません。
もし、その呪いがなければ景明は悪のみを斬ることができる。
即ち自分が自分の価値観で悪と決めつけたもののみを斬る、英雄になることができるのです。
しかし、そんな「厚顔無恥」な人間になることを拒むからこそ、湊斗景明は善を、愛するものを斬り続けるのです。
ホントに難しい。
わたしにもわたしの正義はあります。
でも、普段からその正義は独りよがりじゃないだろうかと自問します。
でもでも、それでもわたしは自分の正義をよりどころに行動し続けます。
例えば、わたしは営業をします。
よそとの鍔迫り合いを制して契約を取ります。
当然その裏では悔しい思いをするものがいるわけです。
しかし、わたしはそれを認識しつつも契約を取り続けます。
すべては自分のために。
見る人の立場が変われば、わたしってひどいやつです。
また、わたしは比較的冷静な性格だと思います。
しかし、それは場合によっては冷たい、冷酷ということにも繋がります。
同じように、人間の性格というものも、その発言の仕方や見る人の立場によって裏と表があると言えるでしょう。
結局、人間の為すすべてのことには裏と表があります。
自分の正義の対極には他者の正義があり、善の裏には悪がある。
このような命題を人の命、というレベルで展開するのが本作「装甲悪鬼村正」なのです。
人の命を奪うとき、いかに自分から見て悪人であっても、その人にその人なりの正義があるならば、その人なりの善の部分があるならば、その時点ですでに自分が断ったものは「悪」だけではありえない。
妖甲村正のもつ呪いは、そのことを戒める鎖に他なりません。
しかし、それでは一般的な勧善懲悪よりも、この善悪相殺の考え方こそが正しいということなのでしょうか?
それはそれで違うと思います。
仮に「善悪相殺」の思想の根本にあるものが真理だとしても、「それが正しい」事だというのではないのでしょう。
「正しい」といってしまったその時から、その見方もまた独善の罪を帯びることになるのですから……。
むしろ正しい答えは出さなくて良いのでしょう。
村正の呪いは、人間がいる限りすべての人間を縛り続ける永遠の呪い。
答えを出すとしたら、それは「無」しかあり得ません。
そして、それなりに楽しく生きているわたしには、どうせそんな答えは受け入れられないのですから。
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