書籍情報
著者 : 芦辺拓
発行元 : 光文社
新書版発行 : 2003.12
文庫版発行 : 2007.1
江戸時代の大坂(大阪)に実在した、エレキテルの研究でも知られる蘭学者、曇斎先生こと橋本宗吉を探偵役に据え、学問で身を立てることを志す若者、箕四郎 と美少女、真知を助手役として書かれた、時代物本格推理の短編集。
収録作品
- 殺しはエレキテル
- 幻はドンクルカームル
- 闇夜のゼオガラヒー
- 木乃伊とウニコール
- 星空にリュクトシキップ
- 恋はトーフルランターレン
こんな人にお薦め
- 江戸時代が好きなあなた
- 蘊蓄が詰まった本が好きなあなた
- 大塩平八郎ファン「じゃない」あなた
あらすじ
以下文庫版裏表紙より引用
「エレキテルで昏睡状態になっていた男が、消え失せた!?」
江戸後期の大坂。蘭学者・曇斎先生こと橋本宗吉の元には、摩訶不思議な事件ばかり持ち込まれる。
寺子屋の若き師匠・箕四郎と美少女・真知を助手役に、曇斎は奇々怪々な事件を鮮やかに解き明かしてゆく――。
次々に飛び出す魅力的な謎に奇想天外な仕掛け。
本格推理の真打ち・芦辺拓、初の捕物帖!
以上引用終わり
書評
江戸時代を舞台にした科学ミステリ
博覧強記なミステリー作家といえば、芦辺拓先生です。
比較的軽妙なタッチで書かれた時代物ですが、町や時代の風俗描写がやっぱりマニアックです。
いろんな町名なども出てきますが、全くついていけません。
でも、時代物っぽい雰囲気の演出する描写としてはよいと思います。
さて、この作品のタイトル「殺しはエレキテル」を初めて見た方にこの時代ミステリの探偵役は? と尋ねると、約99%の方が「平賀源内!」と答えるであろうところ、さすがは大阪ミステリの第一人者・芦辺先生です。
江戸時代の大阪に実在した「曇斎先生」こと「橋本宗吉」なる人物を持ってきました。これは芦辺先生の書くちょっと古めの大阪弁がとても自然で、なかなかのチョイスだと感じました。
また、ここに、美少女の真知と彼女に思いを寄せる箕四郎のやりとりが入ることで、短編らしい軽妙さが生まれ、全体的に気軽に読める短編集になっています。
さて、物語ですが、全六話、それぞれの事件がエレキテルをはじめとした蘭学っぽいもの、舶来ぽいものが事件、謎解きの主題に置かれていて、時代物にした意味のある物語になっています。
江戸時代における科学ミステリといっても良いかも知れません。
そして、その科学的なネタは、トリックの中心となることもあれば、事件解決のための手段として使われることもあり、バリエーション豊かです。
そして、このような道具立てにこそ、芦辺先生のうんちく癖が真価を発揮します。
正直なところ、全体的には芦辺作品はあまり得意とは言えないわたしです。
うんちくが過ぎたり、先生ご自身の伝えたい意図がストレートに表現されすぎていて、物語の後ろにいる「賢い芦辺先生」がちらちら見えてしまうからです。
ところが、この作品に関しては、難しい言葉が自然にはまる時代物ということと、先に述べた舶来ものっぽい道具立てが、うんちく話に実にマッチします。
逆にうんちくがないと、物語に便利な道具をご都合主義で出してきたという感じがして、ミステリとしてはつまらなくなっていたとさえ思ってしまいます。
あと、大塩平八郎が、えらく極悪なお役人として描かれていて、正直???だったのですが、調べてみると史実で曇斎先生と大塩平八郎の間に確執があったようで、そこを敢えて作中で明かさず、こういう役どころにしてしまうところも、芦辺先生が好きそうな知的ゲームっぽい感じでニヤリと笑えました。