書籍情報
著者 : 佐飛通俊
発行元 : 講談社
新書版発行 : 2006.8
佐飛先生の第2弾。
自称作家の素人探偵、ザナドゥ鈴木が活躍する、スラップスティック風味のミステリ。
こんな人にお薦め
- ギャグはちょっと下品なくらいがサイコーだと信じるあなた
- 「黒死館殺人事件」を読む前にペダンティズム(っぽいもの)に慣れておきたいあなた
- まだこれからの新鋭作家さんを応援したいあなた
あらすじ
以下 新書版裏表紙より引用
- ――あれは自殺ではない。
アインシュタインの手記に残された不可解なメッセージ。謎の解明を依頼された自称作家・ザナドゥ鈴木は、アインシュタインの秘蔵手記が眠る老舗ホテル・萩屋へと向う。
そこに集まるのは遺産狙いの狡猾な人間たち。
相続争いはやがて大時代的な屋敷を恐怖に陥れる奇妙な殺人事件へと発展!手記の真相と不可能犯罪に素人探偵が挑む!!
書評
ちょっと間違った方向に頑張りすぎな迷作
うーむ。
着想はよいと思うんですよね。
アインシュタイン博士が来日時に出会った、不可思議な殺人事件。
博士がその事件について自らの推理を記した手記の存在。
そして、その手記を求めてザナドゥ鈴木がやってきた老舗旅館で起こる殺人事件に、その被害者の父親の数十年前の不可解な死。
時を超える3つの死にザナドゥ鈴木が挑む。
なかなかこだわりの一品ではないですか。
しかし、残念なことにそのそれぞれの要素のつながりが表面的なものであるために、単ある詰め込みにも見えてしまいます。
例えば南無井存在(←名前ですw)の死と、その父親の30年前の死の状況は、明らかに似通った要素を持つように描かれているのに、結局そこについて語られることはなかったり、アインシュタイン博士が出会った事件と南無井存在の事件も、手記の存在を仲介として、探偵役のザナドゥ鈴木が事件に絡む要因にこそなっているものの、ただそれだけ。
実際全250ページの物語で、これらの時間をまたいだ事件のつながりを深く書くこと自体なかなか難しいと思うのですが、メインの存在氏の事件が発覚したのが170ページだった時点で、わたしはヤヴァイと思いました。
結局読後に残った印象は「薄い話だな」といったところです。
また、新書版の表紙の折り返しで、佐飛先生が「もう一つのテーマは、笑いです。」と書かれたのを、本編を読み始めてしばらくした時点で気付いたのですが……これも、見た瞬間いや~な予感を感じさせました。
なぜって?
その時点でわたしは数十ページを読んでいたのですが、すでになんだか笑うに笑えない、露骨な荒唐無稽さを感じていたからなのです。
ちょっと狙いすぎです。
先の折り返しには「スラプスティック・ドタバタ・コメディ風」と書かれていらっしゃるのですが、なるほどスラップスティックコメディ風(身体を張った分かり易い笑いを目的とするジャンル。一般的にはチャップリンなどがその代表格のようにいわれますが、日本でいうと、独断ですが、ドリフの8時だよ全員集合のはじめのちょっと長めのコントのような感じかな?)ですから、いわゆる分かり易いタイプのギャグの缶詰を狙われたのかも知れませんが、その世界を文章で表現しようと執着するあまり、とにかく露骨な嫌らしさが前面に出てしまったような気がします。
特に登場人物たちの話し言葉が一部、もう無茶苦茶で、かつ、下品なものですから、笑う以前に完全に引いてしまいました。
チャップリンの演技は、オーバーアクションで、分かり易いギャグが満載ですが、いやらしさや下品さはないですよね?
ただ、作品の終盤になり、謎解きの部分に来ると、そのような無茶なギャグはなりを潜めて来て初めて気付くのですが、実に整然とした文章を書かれます。まあ、それが作家の文章として魅力あるものかどうかは人それぞれの判断だと思うのですが、おそらくそのような文章が佐飛先生の実体ではないかと感じました。少なくとも自然に読めましたしね。
そして、この作品には全体を通してある種衒学的な趣を感じるくらいいろんなジャンルの知識が登場人物たちによって披露されています。この辺は本筋には関係ない部分なので、人によっては無駄に感じてしまう部分かも知れません。しかし、わたしはこのような無駄は好きですし、なんといっても最近ペダントリーの代名詞、あの、「黒死館殺人事件」を読んでいますから!!
もうかわいいもんです。
あっはっは。
というわけで、ネタバレ前の総括ですが
正直言って、全体的に言って満足できたとは言えません。
が。
佐飛先生の作品を、もう読みたくないか? といわれれば、答えはNoです。
今作はいろんな意味で挑戦されたような印象を受けます。
そして、わたしの個人的な印象としては、その挑戦は成功したようには見えないのですが、もっとご自身の持たれている素養を素直に活かして、深めるという方向に挑戦された作品を読んでみたいと思います。
メイントリックですが、あえて良し悪しはよいとして……
この作品を読む直前に、某理系ミステリと言われる作品を読んでおりまして……。
一緒やんか……。
しかもその某作の方が、そのトリックに気付く過程を緻密に書かれている分、とってもちゃちに見えてしまいました。
今や無数にあるとも言うべき推理小説、そしてトリックですから、似てしまうのは仕方のないことで、佐飛先生には文句ないのです。
……。
……お~い。講談社~。ちゃんとせ~よ~。
その某作品。
同じ講談社の、しかもメジャーどころやんかぁ。
まったくもぉ。